(文:ぺけさん)
い・つ・も・の 忙しい人向けの概要 ○運命の神を信仰する部族の子として生まれる。 ○修行さぼってたら別の神に認められ、啓示に開眼 ○神パワーで、一躍部族の筆頭になる。 ○神の思考干渉激しすぎて、自分の意思がどこか分からなくなる。 ○昔の歩き回るのとか、新しいもの見るの楽しかったな。 と言う感情は自分のものだと思い旅に出る。 ○放浪しながら新しいものを常に探している。←今ここ -------------------------------------------------------------------------------- ティエン・シア北部に広がる精霊の森 最初の神の生まれ、そして今現在も多数の神々が住まう森として知られており、そこには多数の神社が建てられている。 都市などまとまった人族の集まる場所は存在しないが、いくつかの部族は、それぞれの神の社を守りながら生活をしている。 リュニ・ミンギュムは、その中の1つ、ミンギュム族として生まれた。 彼女の一族は、ミンギュム=運命の神を信仰する一族であり、神の啓示を聞き、神秘に目覚めた巫女を頂点とし、その言葉に基づき一族の方針を決定する仕組みを取っていた。 巫女になるものは一定ではなく、以前巫女であった人が生んだ子供であっても啓示を聞くことが出来ないなどという事は往々にして起きており。 その為、部族の女性は、よほどの理由が無い限りは巫女の候補として神を降ろす為の修行を受ける事になっていた。 だが、リュニは修行として社で祈りを捧げたり、滝に打たれるよりは、森の中や草原を走り回り、見たこともないものを見て回る方が性に合っていた。その為頻繁に修行を抜け出し、一族の狩猟グループ等にこっそり混ざり、獲物をとってきたり、森の中を走り回ったりしていた。 彼女のように修行に不真面目な女性は毎回何人かはいたが、長い歴史の中で巫女になった事は無く、当然ながら地位は修行をちゃんとしたものよりも低くなるため、周りの真面目に修行をしているものからすれば、馬鹿で野蛮な子というレッテルを貼られ冷ややかに見られていた。 9歳の頃、いつものように森を歩いていたリュニは、木々に隠れるように存在している社を発見した。さほど大きくもないそれは既に長い年月手入れがされておらず、朽ち果てる寸前であった。どんな神が祭られていたのかな。と興味本位で中に入っていくと、1人の男が寝転がっていた。 所々銀や金のラインが入った、黒いマントをつけた美形の優男であった。流れ出る雰囲気と、神と身近な体験をしている部族故の感知能力から、神なのだろうと感じてはいたが、部族の屈強な男の知識しかないリュニからすれば弱そうな変な奴と言う認識だった。 「待っていたぞ、混沌と狂気を操る巫女よ。」 男はゆっくり立ち上がり、変なポーズを決めて言った。、変な奴とリュニは再認識した。 「うむ、健康的な体、溢れる魅力、資質は十分だな!!そしてあまり他の神の手が入っていない のもグーーッド!!」 男はポーズを変えつつ、リュニの身体をジロジロ見た後、親指をサムズアップする。 何か喜んでいるみたいなので、サムズアップでリュニは返した。それに満足したようにうんうんと男は頷いた。 「さて、我はグリュック、混沌とする世界に舞い降りた未来を見る第七邪眼を持つ神だ。巫女よ名前は」 「リュニ、巫女じゃないよ。巫女になるためには修行しなくちゃいけないの。 でも、リュニは修行楽しくないから遊ぶの。」 「修行!んん~いい響きだ!だが、巫女とは覚醒するもの!修行の果ての開眼もいいが、私はドラマティィィック!な展開の方が好みだ!具体的に言えば、落ちこぼれがいきなり能力に目覚め見返されるとか最高だ!!というわけでリュニよ。お前に我の生命の力と、ついでに、更にかわいくなるようドジッ子属性と、我のかっこいいセリフの知識をくれてやろう。拒否権は無いぞ、次いつ適した器が来るかわからないからな!恨むなら社を見つけ、入ってしまった己の迂闊さを呪うのだな。よく言うだろ?好奇心は猫をも殺すと。知らない?まぁ良い。では、リュニよ、我はお前を常に見ているぞ。」 グリュックは、様々にポーズを替え、一方的にしゃべり続けた後、消えてしまった。 言ってることの8割は理解できなかったが、それを聞く対象は消えてしまったため、しぶしぶ部族の村へ戻ってきた彼女を待っていたのは、村の長老たち、巫女など、所謂村の中心人物たちだった。 確かにグリュックの言った通り、今まで巫女の修業もしていない遊びほうけている者が、神を宿して帰っていたのだ。一族からすれば寝耳に水な出来事だったであろう。 リュニはすぐに、次期巫女として据えられ、家族も同様に躍進していった。 当然他の巫女志望と、その家族からすれば面白い話ではなく、反発の動きがあったが、リュニ自体が狩猟グル―プという、一族の最大武力の男たちに人気であった事、そして何故かそのいじめの中心人物が謎の不運に見舞われ行方不明になった事等が重なり、反発は短期に収束した。 リュニだけは知っていた、いや、知ってしまった。 部族の仲間として接していた者たちを心酔させる方法。 誘惑の利かない相手を不運にする方法。 部族のどこを突けば、自分の思う通りに動くか。 窮地を切り抜ける、巧みな言葉。 それらは、自然とリュニの頭の中から浮かび、他に問題を切り抜ける手段を知らなかった彼女は、それらを駆使した。 唯一幸いなことに、リュニがグリュックに会うまでに、特に生き方について考える機会が無く、誘惑と仲良くなる事の違いが分からず、みんなが優しくしてくれるのは良い事と無邪気に思っていた。 数年後、リュニの家族は一族の顔役となり、リュニは美しく成長し、巫女として一族の絶大な信頼を集めていた。 名誉、信頼自分の知ってる世界では思い通りになっていたが、成長とともに自己が確立していけばしていくほど、リュニは自分の思考や行動が、自分の意思か、グリュックの意思なのか分からなくなり、突然自分を殴ったり、奇怪な行動を行うようになった。 ある朝、巫女の起床の世話をするものが、寝室に入ると、リュニはいなかった。 ただ1つ、”ごめんなさい”と書かれた木片が置いてあった。 狂気に犯されていく中で、グリュックと出会う前の、森や草原を走り回って、新しいものを発見するたびに楽しい、面白いと思ったあの気持ちだけは自分のものだと思えた。 そう思ったら、ここには居れなかった。 その日彼女は一族の名前であるミンギュムを捨てた。 もう二度と戻らないという証の為に。 ------------------------------------------------------------------------ ヴァリシア南東部に位置する都市、コルヴォーサの町裏の小さな見世物小屋にリュニは居た。 パスファインダー協会からの仕事が無い時は、ここで、夜は踊り子をしつつ、近くの娼館での傷等に対する様々な傷の手当の仕事などをおこなっていた。 彼女は同様の方法で滞在費を稼ぎつつ、仕事や私的興味で様々な町や遺跡を回っていた。 「開け!生命の門!輝け!命の光!今第八の世界からの力を純白の翼をもって我が目の前に示せ!!生命奔流(ライフ・トレント)」 目の前の娼婦の傷の回りを暖かい光がつつむ。 力を使うたびに言っている言葉は、恥ずかしい言葉らしい。天上語という言語の系統に似ているが、微妙に細部は違うらしい。意味が分からないほどでは無いらしいが。 とはいえ、内から自然と出てくるセリフを言わないと力は発揮せず、そもそも興奮時などは自然と喋っていた馴染みのある言葉のため、リュニの中ではすぐに気にならなくなっていた。 治療が終わった娼婦がお礼を言って出ていくのを見送り、一息をつく。 「そろそろ新しい所も行きたいし、大きな仕事しないとねぇ。」 彼女がそう呟いたその数日後、パスファインダー協会から仕事の依頼が来る。 それが自己の運命なのか、神の意志かを知る術は、未だ無かった。 ------------------------------------------------------------------------------ 以下追記 グリュックという名は色欲と不運の神の1人となっているが、何故彼が生命 の神秘を信徒へと、もたらすのか。 これはグリュックがティエン・シアの神格”月の公子”ツキヨの分霊である事に端を発する。 ツキヨに関する文献では、ツキヨは”天の女帝”シズルと愛し合っていたが、それを妬んだ 彼の兄弟である”妬みの王”フメイヨシによって殺され、その後”医薬の達人”チィ・ジョンの手によって復活したと書かれている。 しかし、この記述は所々が抜けており、その空白がグリュックの出現に深くかかわっている。 ツキヨを殺したフメイヨシは、依然として自分へと愛を傾けないシズルに対する怒りから ツキヨに対して自分の力を流し込み、彼の尊厳も侵そうとした。 この試みは他の神々により完全になる前に防がれたものの、一部は既に成功していた。 そのまま蘇生させても、神格を保てないと判断したチィ・ジョンは、侵された部分を切り離す事で、この問題の解決を図った。 そうして、生まれたのがグリュックである。当然そのような処置の為、神の分霊として完全ではなく、当時の彼は、ほぼ子供程度の知能しかなく、その姿に罪悪感を覚えたチィ・ジョンは密かに彼を見習い弟子に迎え、自身の医薬の知識を教えた。 生まれた際の権能こそ嫉妬の力が強かったが、チィ・ジョンの献身的な指導の下、グリュックは様々な医薬の技術を覚えていった。 が、”猿王”ソン・ウーコンとの出会いが転機となった。酒癖が悪く、よく遊びに出るソン・ウーコン彼によって様々な欺きの技術を覚えていった結果、ついに運気を操作し、相手を欺くまで至った。 ソン・ウーコンはその呑み込みの速さを称賛し、毎夜彼を連れ歩いていた。 そんなある日、ソン・ウーコンはグリュックと酒を酌み交わした際、酔った勢いで、彼の出生について喋ってしまう。今までチィ・ジョンが自分に優しくしてくれたのは憐みだったと考えたグリュックはチィ・ジョンの元を離れ、旅に出た。 かろうじてグリュックに書かれていた文献も、この後どうなったかは記されていない。 また、様々な神とかかわる逸話を持つ神のため、その職能や領域、属性さえも諸説に分かれており、フメイヨシの手下とも、チィ・ジョンの助手と書かれているものもある。 とはいえ、総じて現在神格として名を連ねている神々に比べれば信徒もなく力も弱く、八百万の概念が無い他の地域では存在すらし得なかっただろうという論で一致している。 |