幕間−1
(文:瑞山堂)



「いや、まったく、すばらしいですね」
喜色を浮かべながらソレを口に運ぶのは、痩せた若い男である。
「コレを食べられただけでもアンダーダークに来た甲斐があったというものです」
「それは言い過ぎではないのかね」
顔が見えれば苦笑しているのではないかと思えた。何かが擦れているような、枯れた声からもある程度の感情がこもっている。
「ここに来てからはずっと留守番ですからねぇ。……あなたのせいですよ?」
「ふむ、それは失礼した。しかし、そうは言っても楽しんでいるようだが」
「まぁ、そうですねぇ。見るものほとんどすべてが初めてのものですからね。今のところ、まだ飽きてはいませんよ。それに」
半分ほど無くなった料理を示し、
「コレにも」
「喜んでもらえたようで何よりだ。地上人はあまりソレを好まぬようだからな」
雫石亭に充満する様々な匂いに混じり、それはほのかに清々しい香りを漂わせている。アンダーダークでは希少であろう、緑色の野菜・ハーブを使ったグリーンソース――おそらく。ひょっとしたら野菜でもハーブでない別の緑色の何かなのかもしれない。そのグリーンソースが添えられた――
「そうですね、基本的に害虫ですからね。汚い場所によくいますし。たくさん。生命力逞しく、見た目も、ねぇ」
「こちらでもそう変わらない。ただし、ここで使っているソレはわざわざ“地のノード”まで出向いて獲っている超自然的天然モノだ。地脈のエネルギーの影響を受けて身がしまり、味も良い。街中で獲れるソレはどうも、臭みが強いのだ」
「なるほど、超自然的天然モノですか、そうですよねぇ。でもやっぱりいるんですか、ペデスタルにも」
「いる。街中に転がっている死体を片付けてくれるから害虫とは呼ばないが。しかし、生きている肉もしばしば襲われるから、害虫と言えば害虫か」
「あぁ、はい、襲われましたよ、ボクらも。奇遇にもやっぱり“地のノードで”」
「ほう。このあたりで“地のノード”は一箇所しか知らぬが、それは陰鬱湖の西のクレーターの?」
「はいはい、そうです、そこです」
「なるほど、あなたがたはそこから来たのか。ソレを獲るだけで、その先を探索させたことは無かったのだが……地上と繋がっていたのか」
「あれ? あなたのことですからとっくに知っていたと思っていたのですがねぇ」
「私が知っているのはペデスタルのことだけだ。それも、ペデスタルの全てを知っているわけではない。だからこそ、親愛なるファディーラ嬢の行方を調べているのではないか」
「なるほどなるほど」
ふふふと笑いながら青年は食事を再開した――まだ半分ほど残っている、ゴキブリの冷製グリーンソース添えを。



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