- ほどなく二騎は連れだって緩やかな斜面を登り、丘の中腹の泉のそばにやってきていた。
「ホントだ、きれいな泉だね~」
はしゃぐアレクセイの馬の轡を、既に自分の馬から降りていたバーンがすばやく取った。
そしてアレクセイの馬の頬を撫でながら、さっと繋いでおくためのロープを結わえる。 「少し休もう。馬たちもいい草のあるところに繋いでおくよ」
「ありがとう、バーン」 泉の周りは灌木の茂みの他に落葉樹の中木もあり、また地面は適度な湿り気を持ち、柔らかな短めの草に一面覆われている。
「ここは草もあるんだねー」 アレクセイが泉の水をすくってみると、 「わぁ、冷た~~い!」
澄んだ水はとても冷たく、久しぶりの遠乗りで渇いた喉に染み入るようだった。
ふっとアレクセイが振り返ってみると、ちょうどバーンは二頭の馬を太めの木の幹に繋いでいるようだ。 (まだしばらくこっちに来ないよね?)
そう判断したアレクセイはくるりとバーンに背を向け、そっと鎖帷子とチュニックの胸元を開いた。
……きつい上着と鎧で押え付けられている二つのふくらみをもつ胸元は、すっかり汗がこもってしまっている。
ため息をつきながらアレクセイは水で湿したハンカチで汗をぬぐい取った。 (ふぅ……気持ちいい……)
豊かとはいいかねる双丘ではあるが、それでも最近少しずつ成長してきているのか日々こうして抑えつけるのが苦痛になってきている。
いつまでもこのままではいられない……そうは思いながらも、結局臆病な彼女は今でも自分を偽り続けている。
仲間を信じる気持ちと、それと同じくらい裏切られたくないという恐怖心が、処世が不器用な彼女の行動を縛り続けているのだった。
(バーンは……どうして「二人で遠乗りしよう」って言ってくれたのかな?)
朝の勤行が済んだ頃を見計らって神殿にやってきたバーンは、最初から二頭の馬をレンタルしてきていた。 『俺っ! お前とゆっくり話がしたいっ!』
ふっと、今回の冒険の前のバーンの言葉が脳裏によみがえった。 『……お前は絶対俺が守るからっ!!』
そしてバーンは、自らも何度も打ち倒されそうになりながらも、パーティーの前に立ち塞がる敵をなぎ倒してくれた。
……何度もアレクセイの前に立ち、かばおうとしてくれた。 (お話しって……)
その内容を想像すると、何故かアレクセイは頬が紅潮するのを感じた。
(……気付いて……いるよね? でも……だとしてもわざわざ二人になって問い質すかな?)
理由を色々深読みすると、今度は少し気分が沈んでくるのを感じた。 (バーンはきっと受け入れてくれるよ……)
そう、一生懸命自分に言い聞かせていたその時。 「アレクセイ、少し疲れた?」 「ひゃ!ひゃいっ!?」
すぐ背後から急に声をかけられ、突然思考を現実に引き戻されたアレクセイは文字通り飛び上がって驚いた。
チュニックの留め具を急いでひっかけ、あたふたと身だしなみも整える。
慌ててその場を取り繕う姿はかなり不自然だったはずだが、バーンは何も言わず苦笑いしただけだった。
「暑いなら帷子を脱げばいいのに。 ……お前は俺が守るからさ」 そんなバーンの言葉に、アレクセイは再び頬が熱くなるのを感じるのであった。
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