- 港湾都市トーチポートの北側には典型的な海岸性気候が育てた、乾燥した草原地帯が広がっている。
荒野というほど寂しくはないが、草原というのも少し憚られる。 しかし吹き抜ける風は爽やかで、乗馬を楽しむにはもってこいと言えるだろう。
……その小さな叢や灌木がそこここに点在するだけの原野に、ゆっくりと歩を進める二騎の騎馬の姿があった。
片方には線の細い、サンディブロンドをたなびかせた神官が騎乗している。
神官服や銀の鎖帷子は男性のもののようだが、表情といい中性的な印象が先に立つ。
もう片方の馬に乗っているのは少年期を超え、大人に差し掛かっている印象の黒髪の青年である。
服装や武装は野伏のように見えるが、馬の鞍には両手剣がささっている。 装備からいって二人ともトーチポートに流れてきた冒険者なのだろう。
事実、二人は近頃売出し中の腕利きパーティーの最前衛と後衛を務める魔法戦士と神官であった。
「珍しいね、バーンが普通のグレートソードを持ってくるなんて」
サンディブロンドの神官……アレクセイが、珍しそうに青年の鞍に装備された両手剣を見つめながら切り出した。
今バーンが鞍にさしているのは、幅は広いがあまり長さのない取り回しの良さそうなグレートソードだ。
もちろん小さい剣ではないが、普段バーンが冒険で使う剣に比べれば格段に小さく、軽い。
「怪物を倒すには大きい剣が向いているって言ってなかったっけ?」 以前、ある武器屋で彼が話していた事を思い出しながらアレクセイは言葉を続けた。
「……まぁ、な」 「大きい予備の武器も持ってるのに、へんなの」 屈託なく笑うアレクセイの様子にバーンは思わず頬を赤らめてしまう。
「仕方ないだろ……。今日は魔物を狩るための剣じゃないんだから」 ぼそぼそとそう答えるバーン。
今日は二人だけだからアレクセイを守る剣なのだ……とは恥ずかしくて言えないのだった。 「♪~♪~……ん? 何か言った? バーン」
……もっとも、気持ち良さそうに馬を駆るアレクセイはあまり気にしていないようであったが。 「久しぶりの遠乗りは気持ちいいね、バーン」
大きな冒険から帰還してからしばらくの間雑用に追われていたせいか、アレクセイは久しぶりに気持ちのいい汗を額に浮かべていた。
もともと乗馬に熟達しているわけではないので野駆けでも結構体力を消耗するのだ。 「ふぅ、でもちょっと身体なまっちゃったかな」
そう言って笑うアレクセイに、バーンは半~1マイルほど先に見える小さな緑の丘を指差した。
「……あの丘の南斜面に小さな泉が湧いていて、ちょっとしたオアシスになってる。休むにはいい場所だ」 「そうなの? よく知ってるね」
しかしバーンは苦笑して答えた。 「アレクセイが神殿の雑用をしている間、俺はたまに狩りに来たりしているからな。それで知っているだけだよ」
「そのあたりの逞しさがさすがにバーンだよね。僕なら一人でこんなところにはこれないもん」
屈託なく笑うアレクセイにどう答えたらよいかわからず、丘に向かって黙って馬首を巡らせるしか出来ないバーンであった。
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