『シュテールシュベルト』との出会い
(文:ぷらなりあ)
「う~~ん……。ねえ、バーン~~、どれにしたらいいと思う?」
「……俺はこんな重い鎧は着ないからな……とにかく肩周りと腰回りの動きがいいものがいいんじゃないか? お前はグラムと違って膂力がないし、腕が重くならない物がいいだろ」 「じゃからおぬしももう少し守りを固めるべきじゃって。ワシの買い物はおおむね終わりじゃから、金貨2000枚くらいなら貸してやれるぞ? ほれ、この『浮く盾』でも買ったらいいんじゃないか?」 当初の用事を済ませた3人は、掘り出し物やアレクセイの鎧を求めて店の中を物色して回っていた。 『サートラスの尖兵』の本拠地に近付くにつれ戦いが激化している事もあり、機動力を捨て防御力を上げようと考えたアレクセイであったが、同じプレートメールでも選択肢が多いので決めかねていたのだ。 更に超機動力偏重で生残性の低いバーンになにくれとなくグラムがお勧めの品を持って来たりして、場は非常に盛り上がっていた。 「……俺もそうは思うが、浮いても結構邪魔なんだよな、盾は」 「防具が邪魔とかありえんぞ……」 とは言え、戦闘スタイルの全く違うグラムとバーンはなかなか噛み合わなかったりする。 まぁ、こればかりはどうにもならないのだが……。 「あ、この鎧はちょっとすっきりしてて動きやすそうじゃない?」 そうこうするうちに、アレクセイが一領のプレートメールに目を付けた。 肩と腰の可動部が大きく、腕が極端に重くならない造りになっている扱いやすそうな上に、白銀をふんだんに使い、黄金造りの飾り金具もあしらわれている洒落たデザインの細身の鎧だった。 「ふ~~む。こりゃ女騎士なんかが着る鎧じゃな。だが力のない小僧にはちょうどいいかも知れん」 「急所の守りは十分のようだし、いいんじゃないか?」 女騎士が着るような……のくだりでちょっとドキッとしたアレクセイであったが、特にその部分には拘りなくグラムもバーンも賛成してくれたのでこれに決める事にした。 「じゃあこれにしまーす」 「毎度~~っす! で、こいつにも強化をかけるんですかい? 一日待っていただけりゃ、金貨1000枚でやっておきやすよ?」 「もちろん、お願いします!」 元気のいい店員に負けず、威勢良く強化の注文もするアレクセイであった。 「はいよっ。……親方―、これもお願いしやーす」 「あとはもうちょっと大きな盾を……」 「うむ。盾は大事じゃぞ」 さらなる防御力アップを目指すアレクセイの台詞に、グラムはしかつめらしく頷いた。 更に物色をはじめるアレクセイとグラムの二人だったが……いつの間にか、バーンは何かに魂を奪われたようにぼーっと突っ立ったままである。 不審に思ったアレクセイがよく見ると、どうやら彼は店の奥にある何かをじーっと見つめているようだった。 「どうしたの? バーン」 アレクセイがそう声をかけると、 「ん? ……いや、ちょっと……」 バーンは乱雑に置かれた木箱を乗り越え、壁に立てかけられている剣の前に立った。 それは、バーンが今背負っている無骨な幅広の大剣に比べて更に長い、刀身だけで優に5フィート半はある巨大な両手剣だった。 しかし巨大である割に柄周りなどは人間が持つサイズになっており、繊細な銀細工でコアロン・ラレシアンの意匠が施された黒革の鞘と相俟って、かなり洗練された印象を受ける。 「おぬしは本当に剣が好きじゃのう」 「そりゃあ……な。これは、すごくいい剣だ……抜かなくてもわかる」 「しかし、おぬしはどうしてそこまで大型の剣に拘るのだ? 普通のサイズの方が取り回しも楽じゃろうに」 そこで、グラムは日頃感じていた疑問をバーンにぶつけてみた。 確かにバーンの剣の一撃は凄まじい威力を発揮する。しかし超重量武器の宿命か、グラムに比べるとどうしても攻撃の確実性に欠けるきらいがある。第一、多対多の集団戦には全く向いているとは思えない。 なによりもまず「部族の戦列の一翼を担う」事を一義とし、安定した戦闘技術を目指してきたグラムには理解出来ない部分があったのだ。 「言われてみれば確かに……」 アレクセイにとっても、お世辞にも大柄とは言えない(最近は以前に比べると逞しくなってはきたが)バーンが何故大型の剣に拘るのかちょっと不思議ではあった。 どうやら父と同じような戦闘スタイルを取っている故らしいが、危険な鉄火場で貫き続ける理由がそれだけとも思えない。 訊ねられたバーンは、しばらく逡巡していたようだったが、アレクセイも疑問に感じているようなのを見て重い口を開いた。 「……俺が剣を向けるべき相手は人間じゃなく、モンスターだけだからだ。人外を斬るには人外の剣で……そう思っているから、俺は大型の剣を使いたい」 そしてちょっと悔しそうに俯き、 「ペデスタルでの戦闘で、操られていただけかもしれない連中を斬っておいて言う台詞ではないかもしれないがな」 そう呟いた。 「あ、あれは仕方ない事じゃない? マインドフレイヤーに操られているのか雇われているのか、判断なんか誰にも出来ないよ!」 落ち込んだ様子のバーンに、アレクセイは勢い込んでそう言った。 「それに、あの時はニンジャに突破されかかってたし……後列のウィンシーさんや僕にかかって来そうだったから斬ったんでしょう?」 それは……事実だった。 彼がユーヌのような突破力を持っている事は十分予想出来たことだったし、手加減する余裕は確かになかった。 「確かにそうだが……俺は……」 アレクセイが危ないと思ったから、怒りと焦燥に身を任せて斬ってしまった……という言葉は辛うじて飲み込んだ。 行為は間違っていなかった。だが心の中で「人外を斬る剣」を否定してしまっていた事をバーンは悔いていたのだ。 「まぁ、おぬしはまだ若いからの。頭に血が上ったくらいの事を気に病むのはやめることじゃ」 バーンの内心を察しているのかいないのか、グラムは明るい声で妙に的確な事を言うと、バーンの腰の辺りをバンバンと叩いた。 するとアレクセイもバーンの手を取り、 「そうそう。それで僕も助かったんだよ。ありがとうね、バーン」 にっこりと笑った。 その笑顔と手の温もりに、バーンはようやくちょっと救われた様な気がしていた。 |