緑風茨、その顛末(主にバーン視点で)
(文:ぷらなりあ)



「……ぶふっ」
 アレクセイが引き上げた直後、堪えかねたようにユーヌが吹き出した。
「いや~~、青春ですネ~~」
「どうしましたの?」
「藪から棒ですね?」
 一人で笑いを噛み殺しているユーヌに、ウィンシーとゼルギウスが訝しげな目を向けた。
「いやなに、若者は色々あるよな~~と思いましてネ? おい、バーン、アレクセイが帰るってさ」
 二人にすぐには答えず、ユーヌは奥に座って何かを描いているバーンに声をかけた。
「え? ……ああ、わかった……うわわっ!?」
 “バサバサ……“
 急いでバーンがモンスター図鑑や筆記用具をバッグに突っ込んで立ち上がろうとすると、手元が狂ったのか数枚の羊皮紙が床に散らばってしまう。
 ユーヌはやれやれと肩を竦めながら、慌てて拾い集めるバーンを手伝って何枚かの落とし物を拾ってやるとぽんぽん、と肩を叩いた。
「今出たばっかりだから、慌てなくても追い付くヨ」
「そ、そうか。すまん」
 それじゃあ、と取り繕ったように言うと、バーンは急いで夜の街に駆けだして行った。

「小僧はアレクセイを甘やかし過ぎじゃないか? いくら夜道と言っても毎度毎度送ってやる事もあるまいにのう?」
 バーンを見送りながら、「気合が足らん」とグラムは大ジョッキのエールを一息に空けた。
「いやいや、きっと心配で仕方ないんだヨ」
 そう言いながらユーヌはバーンからくすねた羊皮紙を広げてニヤニヤ笑っている。
「夜道は酔っ払いとか不埒な男がうろついていたりするからネー」
「それはなんの紙ですかな……ほ~~。なるほどね~~」
 目をキラキラさせてユーヌの手元を覗きこんだゼルギウスは感心したように唸った。
「さすがバーンと言うべきか、さすがのバーンもと言うべきか……」
「なになに? 私にも見せていただけませんこと?」
 そう言って羊皮紙をひったくったウィンシーも、
「あらあら。悪戯の甲斐があったのですかしら?」
 そこに描かれている物を見ると得心したように頷いた。
「それにしても上手ですわねー。なんと言っても愛がありますわ、愛が」
 羊皮紙には……丁寧に描かれたアレクセイの姿があった。
 そしてその絵の中のアレクセイは、鎧を付けてはいなかった。

その頃。
 バーンはアレクセイの後ろについて万神殿への道をトボトボと歩いていた。
 いつもは肩を並べて歩くところだが、今日はなんとなく気が引けて三歩ほど間を空けてしまっている。
 そればかりか、時折アレクセイがなにか言いたそうにチラチラと後ろを見るのだが、それにも目を合わせる事が出来ないでいる。

 実のところ、バーンはひどく戸惑っていた。
(女の子……だよな?)
 もちろん、怒ってなどいない。あまり驚きもない。むしろ「やっぱり」という気すらしているのに、だ。
 何の事はない、いざ女の子ではないか?と意識すると、何をどう話したらいいのかがわからないのだ。
 聞きたい事、そして多分言いたい事はたくさんある。
 もしかしたら以前から気になっていた娘ではないか……とか、たくさん、たくさん、もやもやと言葉になりきれない想いが渦巻いて、何も言うことが出来ないのだ。
 そして一番わからないのが、
(俺は……どうしてこんなにどきどきするんだ?)
 という事である。
 バーンはこんな気持ちになった事は、今まで一度もないのだ。
 頭の中に、該当する一つの言葉があるのだが……この気持ちがはっきりと「それ」かどうか、よくわからない。
 全てが急すぎて、まだ少年の域を抜けきれていない彼には気持ちの整理が出来ていないのだった。
(アレクセイ……。君は、本当に女の子なのか?)
(女性の姿の君と俺は……何度か街や温泉で会ってはいなかったか?)
(俺は……本当の君が知りたい……)
 無理矢理訊ねたい事を整理しても、それは全く言葉にならない。

 心中はさておき、黙々と歩き続けた二人はいつの間にか万神殿の宿舎の前に着いていた。

「着いたよ、バーン」
 くるりと振り返ったアレクセイの瞳は、心なしか潤んで見えた。
「ありがと、今日も送ってくれて。……また明日ね」
 何かを期待するようにじっと待つアレクセイに、
「ああ……気にするな」
 それでもバーンは一度も目を合わせることが出来ず、結局口から出てきたのはそんな愛想のない一言だけだった。
「じゃ……おやすみなさい」
 寂しそうに微笑んでくるりと背を向けたアレクセイの姿に、バーンの心は突然激しい焦燥に駆られた。
 今何か言わなければ、きっと今夜、アレクセイは泣きながら過ごす……そんなヴィジョンが脳裏をよぎったのだ。
 そして何を言えばいいのかもわからず、とぼとぼと宿舎への階段を上るアレクセイの背にバーンは呼びかけた。
「アレクセイっ!」
 驚いたように振り向くアレクセイ。
 バーンはまっすぐに彼女の瞳を見つめると、一気に言葉を振り絞った。
「俺っ! お前とゆっくり話しがしたいっ! 今度の冒険が終わったらっ! ……だから、だから……お前は絶対俺が守るからっ! 守るからっ!」
 そして踵を返すと、全速力で走り出す。
(そうだ。まだ何も始まっちゃいない。わからなくたっていいじゃないか。大きな仕事を成し遂げれば……『サートラスの尖兵』の陰謀を叩き潰す事が出来れば、きっと俺は自信を持って自分の気持ちを口に出すことが出来るような気がする。それまでは絶対に死なせない……必ず守りぬく)
 気持ちが固まると、不思議と身体が軽くなるように感じられた。
 どんな敵に対しても、引かずに立ち向かえるような気がしてきた。

 何故かこみ上げる笑みをかんばせに浮かべながら、バーンは夜のトーチ・ポートを駆け抜けていくのだった。

   ~~ 了 ~~


さすがに胸元を見てしまったとなると気が付かないのも不自然なので、8割確信(あとは本人の口から聞きたいと思ってる)くらいまで状態を進める事にしました。
アレクセイの心理は以前「戦場で胸元が切り裂かれてバレる」パターンの時の反応をフェイさんと話していましたので、それをアレンジして嵌め込んでみましたが、どんなもんでしょうね?
終盤のアレクセイの心理はさすがに触れませんでしたので、完全バーン視点で書いてあります。


いやー、それにしても……。
書いている間はバーンにシンクロしてノリノリで書いているのですが……。


いざ書きあげて見直してみると、

「……ぎ、ぎぃやぁぁぁああああ!! こ、こっぱずかしいにもほどがあるっwwww なんというバカな青春www」

と言わざるを得ませんな(苦笑)

まぁ、とりあえずこんな感じでいかがでしょうか??
それはさておきバーンの最後の行動、完璧死亡フラグですよねwww<「俺、今度の作戦が終わったら告白するんだ」



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