ある日の野営風景
(文:ぷらなりあ)


くるくる働くのはバーンとアレクセイくらいとはいえ、一時ほど後にはすっかり野営地も出来上がっていた。
 この頃になると太陽もだいぶ傾き、夜の帳が近付いている事を知らせている。
 小さな焚き火が二つ作られ、それぞれ料理も始まっていた。
 鍋のかかった焚き火の前にはアレクセイが陣取り、楽しそうに豆と芋のシチューをこしらえている。
 もう一つの焚き火ではグラムがアヒルの丸焼きを作りながら、滴る脂を堅パンに染み込ませてはビールのつまみにしていた。
「う〜〜ん、旨い! 一日歩いた後のビールは格別じゃわい」
 グラムがビールに舌鼓を打っていると、いつのまにかウィンシーがやってきてグラムの壷に手を伸ばしていた。
「では私も失敬して……」
「こりゃ! ワシの酒じゃ!」
 もちろんすぐに突っ込んだグラムではあったが、
「……あらあら、脂がこぼれますわよ?」
「おおう、勿体無い。……肉ももちろん旨いが、焼肉の番をして脂を見逃すわけにはいかん」
 あっさりと脂受けに気を逸らされてしまった。
 もちろんその隙にウィンシーは自分のマグカップに並々とビールを注ぎ、
「ごくごく……。ふぅ。本当、旅の空で飲むビールは格別ですわね」
 腰に手をあてて一気にそれを飲み干した。
「そうじゃろそうじゃろ……って、こらっ! 魔法使いっ!」
「ゼル〜〜、グラムが呼んでますわよ〜〜?」
「なんですかな? 自分にもビールを貰えるんですかな?」
 とぼけたウィンシーの声に、ゼルギウスもマグカップを持参してあらわれた。
「おぬしら、自分の酒を呑まんかい!」
「いやー、すみませんねえ」
 華麗に聞き流すとウィンシーからピッチを受け取り、嬉しそうにゼルギウスは自分のカップを満たすのだった。

「おーい、そっちの茂みにはばかり作っておいたからなー……って、なにをやっているんだか」
 トイレ設営を終えたバーンが戻ってくると、焼肉をしている焚き火の回りはすっかり宴会状態になっていた。
「なんか、ビールを取り合ってるみたい」
 ひとり輪の外でシチューを作っていたアレクセイが微笑みながらそう返した。
「ふぅん」
 バーンは鍋の焚き火のそばに来ると、アレクセイの反対側に腰を降ろす。
 そして持ってきた焚き木の中から手ごろなサイズの物を選び出し、長楊枝を削り始めた。
 以前は木こりをやっていただけあり、たちまちバーンは器用に何本もの長楊枝を作り上げてしまう。更にその中から柔らかめの何本かを抜き出し、先端を叩いて総楊枝もいくつか完成させた。
「いつもながら上手だね」
 いつの間にか隣に座ってバーンの手元を覗きこんでいたアレクセイが、感心したようにそう声をかけた。
「慣れているからな……アレクセイもいるか?」
 答えを待たず、バーンは一番良く出来たと思う総楊枝を手に取るとアレクセイに渡した。
「え、あ、ありがと。大切にする」
「……いや、気にするな。歯は大切だからな」
 一瞬手が触れ合った二人は、ちょっととんちんかんな言葉を交わすとさっと視線を逸らして俯いた。
 そしてもじもじしながら取り繕ったようにバーンは長楊枝作りを、アレクセイはシチュー作りを再開する。
「バーンってさ」
 しばらくの間黙々と作業していた二人だったが、あくも取り終わってする事のなくなったアレクセイが、おたまで鍋をかき回しながら言葉を切り出した。
「ん?」
「結構さ、なんでも器用にこなすよね。そういう細工とか、絵とか、料理も上手だし」
 バーンは頬を赤くして困ったように顎を掻きながら、
「子供の頃から親父や師匠にやらされてたからだよ」
 そう答えた。そしてしばらく考えると、
「……アレクセイの料理も美味いよ。それに字も上手だ」
 と付け加えた。
「子供の頃から神殿でやってたからね……っと」
 そこでなにかに気がついたアレクセイはふっと表情を綻ばせた。
「バーンと、一緒だね」
「そうみたいだな」
 そして二人は、顔を見合わせて笑いあうのだった。

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