ある日の野営風景
(文:ぷらなりあ)


 北西の辺境に向かう街道はその日も一日気持ち良く晴れ、神殿の依頼を受けた一行は順調にキングスホルムの村へと歩を進めていた。
 しばらく前にゴブリンなどが出没する騒動もあったが、この大陸にあっては比較的安全な地域の事である。一同が出会うきっかけとなった唐突な嵐でもない限りさしたるトラブルは考えられない。
 ……無論「熟練した冒険者にとっては」程度の安全ではあるが。

 そんな折。
「ふぅ、そろそろ太陽も傾いてきましたねえ。そろそろ夜営の準備が必要なのではありませんか?」
 緩く固まって歩く一同の後ろをふうふう言いながら歩いていた線の細い青年、ゼルギウスが他のメンバーに声をかけた。
「お主は一向根性がないのう。戦士は気合じゃぞ、気合」
「私は魔法使いなんですがね……」
 分厚い金属鎧を身に纏ってなお元気一杯のドワーフ戦士、グラムの苦言に答えるゼルギウスの額にはうっすらと汗がにじんでいる。
「あら、魔法使いも気合よ?」
 そう言いながら涼しい顔をしているのは最近パーティーに合流したばかりのウィンシーである。……実はちゃっかりアレクセイのミュールの背に座っていたりするのだが。
「ならばその特等席を代わってやったらどうじゃ?」
 呆れた様なグラムの言葉も、世間慣れしたウィンシーにはどこ吹く風である。
「女に歩けだなんて……これだからドワーフは無粋だって言われるんですのよ。ねー、アレクセイちゃん♪」
「えっ? なんで僕に振るんですか?」
「そりゃー、無粋じゃない男の子の意見を聞きたいんじゃないのか?」
 にやにやしながらすかさずウィンシーに加勢したのは銀髪のエルフ、ユーヌである。
 軽装の鎧と細身の剣、隙のない身のこなしは彼が戦闘でも力を発揮出来るタイプのローグである事を物語っている。
「ぼ、僕にそんなコトわかるわけないじゃないですかっ!」
 明らかにからかわれている事に気が付いたアレクセイがウィンシーやユーヌとワイワイやりあっていると……。
「……このペースなら十分明日キングスホルムに着く。別にここらで夜営しても構わないんじゃないか? ちょうど右手にいい感じの丘と林があるしな」
 空気を読んでいるのかいないのか、黙って地形を眺めていた大剣を担いだ軽装のダスクブレード、バーンが一行に振り向いて言った。
 実はメンバー中一番若いとはいえ、野外生活に関する知識ではレンジャーでもあるバーンの言葉は軽くはない。
「そうですよー。ここまで来れば慌てる事はありませんって」
 百万の援軍を得たゼルギウスは、嬉しそうにその言葉に頷いた。
「仕方のないヤツじゃ」
「根性が足りないんですわ、根性が」
 グラムが嘆息し、すかさずウィンシーは嬉しそうに茶々を入れる。
「魔法使いに必要なのは知性と天賦の才ですよ」
 2人の突っ込みに、ゼルギウスは涼しい顔で答えた。

 それからしばらくして……。
 一同はまばらに喬木が生える小さな丘の上に立っていた。
「ちょっと見晴らしが良すぎるが……少し潅木を刈ってきて回りを囲えば大丈夫だろ。今日はここに夜営しよう」
 バーンはそう言うと、座る間もなく早速ホールディングバッグの中から鍋や水汲みバケツ、手斧や毛布、寝袋など夜営の道具を取り出し始めた。
「あ、じゃあ僕は焚き木を拾うね。今日の食事当番は、えーと、ユー……」
「俺は周囲をちょっと偵察して来た方がいいよなっ! じゃっ!」
 アレクセイが皆まで言う前に、ユーヌはすちゃっ!と手を上げると、唖然とするバーンとアレクセイを尻目にぶらぶらと林の奥の方に行ってしまった。
「……さすが、素早いわね」
 その様子を、すでに一番居心地の良さそうな喬木の根元にマイカーペットと毛布を敷いてのんびり座っているウィンシーが可笑しそうに見送っていた。
「人の事は言えんじゃろが」
 バーンにバケツを渡されたグラムは、そう毒づきながら近くの小川に水を汲みに行かされるのであった。



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