- 星の光がクリットウォールを照らす頃、その女性神官と魔法戦士であるバーンは仲間たちと共に下町の酒場にいた。
「確かにな。その司祭の言う事が正しかろう。」 酒豪で知られるドワーフ族の戦士、グラムが4杯目のジョッキを置く。
ビールをあおりながら夕方の神殿での話を聞いていた彼だが、何より規律や秩序を重んじるドワーフの戦士としては、それも仕方なく思えたのだ。
隣では、アルベルトも頷きながら炒った木の実をつまんでいる。
「あたしとしては、助けてあげられるなら、別に助けてあげてもいいと思うんだけどねぇ。」 「同感です。」
ウィンシーの言葉に、ゼルギウスが頷く。
「まぁ、君達が行かなければ、同じ結果になってたんだから、しょうがないんじゃないの?」
「でも、行って、見ちゃったんですよ。助けてあげたいじゃないですか。」 ユーヌの言葉に、アイエールが反論する。
「なら、使者とか言わなきゃよかったじゃん。向こうはニロンドって“国”に借りを作ったみたいになりたくなかったんだろ?」 「それは…。」
「そう言うな。ハイローニアス神殿は、まるで軍みたいな組織なんだから、明確に言わないと信じてくれないだろ。」 ユーヌの言葉に、バーンがフォローを入れる。
「そりゃあ、私だって分かってますよ。だから引き下がったんだから…。」
- 北からの風が、頬をなでる。
深夜コッソリと宿を抜け出してきたアイエールは、1人「彼女」の家へと急いでいた。
夕方、騎士の遺体を家に運ぶのを手伝ったので、家の場所は分かっている。 もっとも、運ぶのは殆どバーンがやってくれたのだが。
暗く、人の姿もない通りは、酷く寂しく見える。 「バーンは怒るかな…。」 「危険な夜道を一人で歩くのは怒るかな。」 「!」
つぶやきに対して、思いもかけず返事が返ってきたことで、思わず声を上げそうになるのをこらえる。
「驚かせて悪い。でも、アイエールならこうするだろうと思ってな。」 「バレバレ、だね。」
ほーっと、ため息を吐くが、その目はいつもより幾分釣りあがっているように見える。 これは、絶対に譲らない考えがある時の、彼女の目だ。
もっとも、このようにすぐに顔に出るから、今回の事もすぐに分かったわけだが。 「いいよ、言わなくても分かってるよ。」
何かを言おうとしたアイエールを静止して、バーンが言う。
「私はいくからねっ!」 「だから、分かってるって。」
どうせ、この頑固者は言っても聞かないのだ。 だったら、自分も一緒に行ったほうがいい。
神殿や国から咎められるにせよ、収監されるにせよ、一緒の方がいいだろう。
「ごめん、でも、皆には迷惑かからないようにするから…。だからバーンも…。」
実のところ、バーンも彼女と同じく、言い出したら聞かないところがある。 「いや、俺も行く。」 「ダメ。」
「俺もいくんだからねっ!」 先ほどの彼女の真似だ。 微かに笑顔を交わす。
「馬鹿だなぁ。バーンは。 不器用にも程があるというか。」 「お前がいうな。」
「まぁ、似たもの同士って事だね。」
今度は、建物の影から、聞きなれたハーフリングの声が聞こえる。 「アルベルトまで…。 まさかあなたも一緒に行こうなんて思ってないわよね?」
「そうだな、家には一緒に行くけど、一緒に牢屋はゴメンかな。」 ニコリ、と茶目っ気たっぷりに笑う。 「ウィンシーさんの発案だよ。」
「まったく、お人よしよねー。馬鹿よねー。不器用よねー。アホタレよねー。」 「こら。」 ウィンシーの言葉に、バーンが反応する。
アルベルトによって、一旦酒場に連れ戻された2人は、ウィンシーと合流し、4人でテーブルを囲んでいた。
「あんたも、『迷惑かけない』なんて言っていたけど、そんなのかかるに決まってるじゃない。バッカねー。」 「うう…。」
「まぁまぁ。で、僕達が協力しようと言うわけ。」
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