緑風茨(主にアレクセイ視点で)
(文:そめいF)


その夜、温泉から帰ってきたばかりのバーンは、いつもの部屋に一人姿勢よく座るアレクセイの出迎えを受ける。
「あれ?皆は?」
「宴会の準備だってさ。」
きょろきょろと部屋を見回しながら問うバーンにアレクセイが答える。

「で、緑風茨の使い方だったな。 随分いいものを貰ったじゃないか。」
「そう。 ユーヌからもらったんだけど、ちゃんとした巻き付け方をバーンに見てもらえって。」

そう話すアレクセイからも、温泉と石鹸のいい香りがする。
考えてみれば、彼と一緒に温泉から帰ってきたことはあっても、一緒に行った事はなかったな、などと思いつつ、部屋を見回す。

「で、その緑風茨はどこにあるんだ?」
「…やっぱり、見ないと分からないよ、ね?」
「そりゃあな。」
「……。」

沈黙が部屋の中に流れた。



「今日はアレクセイも来てるんですか?」
宿の1階にある酒場から、吹き抜けとなっている2階の部屋の扉を見ながらゼルギウスがつぶやく。
エールがなみなみと注がれたジョッキに口をつけながら、楽しげに2階の扉を見ているユーヌやウィンシー、既に3杯目のジョッキに突入しているグラムを見渡し、怪訝な表情を浮かべる。

「で、二人で一体何をやってるんです?」
「とっても、い・い・こ・と・よぉん♪」
「そうそう、“いいこと”ダネー。」
「はぁ…もうそんな関係だったんですか。」
誤解を招く発言に誤解したゼルが、若干顔を赤らめる。

「お前らが何言ってるのかさっぱり分からんが、まぁ、面白いものが見られるらしいからな。」
そういいつつ、グラムは4杯目のジョッキをグイッと飲み干した。




その頃、2階では服のボタンを外し、おずおずと肩口までを露出したアレクセイを、バーンが制止していた。

「まてまて、何で脱ぐんだ!?」
「だって、肌に直接巻くか、せめて下着の上からじゃないとダメなんでしょ?」
「ユーヌ~!!」

扉を開け、1階の酒場を見下ろすと、こちらを見上げていたユーヌの口が「あ、やべ」とでも言ったかのように動いた。

「なんだ、大して“いいこと”でもありませんでしたねー。 部屋から出てきた時の顔は見ものでしたが。」
事情を知ったゼルギウスが、木の実の漬物をほおばりながら言う。

「まったく、ユーヌもウィンシーさんもお人が悪いですよ。」
しばらくの後、バーンとたたずまいを直したアレクセイがテーブルに加わっていた。
「ちょっとした、お茶目じゃないかー。 いいものをあげたには違いないだろ?」
「あたしは別に男同士だし、いいと思ったんだけどなぁ。 うふふ。」
「あっ…。」

その言葉に、思わず気づく。
自分を本当に男だと思っているなら、この悪戯は意味が無いではないか、と。

「気づいてないのはバーンくらいだろ。 そのワリには赤くなってるんだけどナ。」
「何のことだ?」
ニヤニヤと笑うユーヌに、アンダーダークで出会ったモンスターをノートに書き込んでいたバーンが顔を上げる。

「これだもんなー。 ホラホラ、まぁ、頑張れよ。」
「何を頑張るんですか、何を!」

往生際悪く演技したものの、そろそろ限界かな。
いや、それ以前にその必要ももう無いのかもしれない。
周囲で談笑する仲間の、楽しそうな笑顔を見ながら、アレクセイは薄暗くなった窓の外を眺めていた。


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