緑風茨(主にアレクセイ視点で)
(文:そめいF)


「やっちゃうよの会」のねこたまさんよりアイディアをいただいて書いてみました。
原案から台詞とか順番は変えちゃいましたが、大筋はそのままで。

時間軸としては11話終了後。

キャラクターの台詞は大体想像で書かせていただきました。
全体的にウィンシーさんの台詞が多いですが、同じ台詞をユーヌに喋らせたらアレクセイが信用しないかと。(・∀・;)
ユーヌ、ごめん!(笑)


ファーガンド大陸屈指の港町、トーチ・ポート。
港町であり、陸上交通の要衝でもあることから、この町には多くの珍しい品が集まる。
「これは、いいモノだ〜。」
今日も、市場にはこんな声が響いていた。

1時間後、その声の主は酒場<赤目の船乗り亭>で仲間の女魔導師とエールを酌み交わしていた。
「で、その”いいもの”って何なのよ?」
「これだよ。」
彼は青々とした茨の束を彼女に見せる。

「ふーん。 ガーデニングでも始める気? ユーヌも趣味が変わったわね。」
半ば呆れた様子でエールをあおる女魔導師に、彼は茨を揺らしつつ、やや得意げな様子で説明を始める。
「これは”緑風茨”って言ってね。 近くに毒があると、すぐに枯れてしまう性質を持ってるんだよ。
だから、持ち主はあらかじめ毒に対して準備しておける。 まぁ、お守りみたいなものさ。」

先ほどまで退屈そうに聞いていた女魔導師の瞳に、興味の光が宿る。
「なるほど。 冒険者向けってわけか。」
「そういうこと。 なんなら1本譲ってやってもいいぜ?」
束を解いて1本を彼女に渡す。
「あら、ユーヌがお金を取らないなんて珍しい。」
「高い物でもないからな。」
実際には珍しい植物であり、価格も一般人の生活費1年分に相当するのだが、それを言えば悪戯が成り立たなくなってしまう。
「だがな、ウィンシー。 これは特殊な植物で、ある程度の温度を与えておかないと作用しないんだ。 直接肌に巻くか、せめて肌着の上につけなければ意味が無いぜ?」
そう言い放つユーヌの口調は、あくまで説明的ではあるが、女魔導師ウィンシーとて、それなりの人生経験をつんだ冒険者である。
彼の表情に宿る微かな悪戯の色を見越したかのように、妖艶な、それでいて攻撃的な表情を浮かべる。

「ふーん、で、それを私にやらせようと?」
言葉が冷たい。
これにはユーヌも悪戯をあきらめざるを得なかった。
少なくともウィンシーに対しては。

「いや、ホントーは、鎧の上からでもいいんだけどな。 そう言って遊べそうな奴らがいるだろ?」
「…乗った!!」
やはり策は二段構えにしておくに限る、などとつぶやきつつ、彼とウィンシーはヒルガ大聖堂へと向かった。


「で、僕に使ってみろって言うんですか?」
大聖堂での1日の勤めを終えたアレクセイを宿の1室に呼び出し、先ほどと同じ説明をしてみたものの、彼…いや、彼女もユーヌの悪戯を疑っているようだ。

「本当にそんな効果があるんですか?」
だがそこにはウィンシーのような自信を持っての否定はない。
「なんだよー。 疑ってるのか?」
「いえ、べつにそんな訳では…。」

パーティの中でも基本的に善人であるアレクセイやバーンは、こういった受け答えに弱い。
世間知らずのアレクセイならばなおさらだ。
ここはもう一押しと判断したウィンシーが後を続ける。
「別に、あなただけの為じゃないのよ。 僧侶が真っ先に倒れたら、パーティはどうなると思う?」
「そ、それは…」
「そう、困るでしょう?」

ウィンシーのもっともな問いかけに、ようやくアレクセイが折れる。
「では、どうやって使えばいいんでしょう?」
「ああ、そうだったな。 ウィンシー、見せてあげなよ。」
「はいな。」
「ちょっと…なんで脱ぐんですかーっ?!」

突然服を脱ぎ出したウィンシーに慌てるアレクセイを見て、女魔導師が艶っぽい笑みを作ってみせる。
「あら、もしかして女性の肌を見るのは始めて?」

「そ、そんなことあるわけ…いや、そうですっ!!」
とっくにばれている事も知らずに、慌てて取り繕う女性神官を楽しむように、ゆっくりとウィンシーは肩から服をぱさりと落とし、肌も露な下着姿をのぞかせる。
その下着を意識させるかのように、また女性である部分を意識させるかのように茨が巻きつけられていた。

「こ、これは…。」
「うふふ、特別サービスよ、アレクセイくん。」
あまりの大胆さに思わず後ずさりするアレクセイにウィンシーがウィンクしたところで、タイミングを見計らったように、ユーヌが茨を手渡す。
「さ、君もやってみなヨ。」
「えーっ?!」
赤面するアレクセイ。
14歳の少年神官ならぬ、17歳の女性神官には無理もない事なのだが、自ら「少年神官」と称している以上、断るのも不自然だという思いと、恥じらいから動けずにいる彼女にユーヌが止めを刺しにかかる。

「そういう植物の扱いはバーンが詳しいからな。 結び方とか、見てもらうといいヨ。」
「そんな!せめてウィンシーさんに…」
「あら、あたしに男の子のハダカを見ろっていうわけ?」
ウィンシーもとっくに彼女の変装など見破ってはいるが、それを言ってはつまらないというものだ。

「なんなら、俺がみてやってもいいぜ?」
助け舟を出しているふりをして、さらに追い込んでみる。
何しろユーヌは変装を見破っている事をパーティ中で唯一彼女に直接伝えた人物なのである。
いくらエルフが人間の女性に興味を持たないとは言っても、見てもらおうという気にはなれなかった。

「や、やっぱりこれはお返しします!」
もはや目を合わせることすらできずに茨を差し帰すが、ユーヌもウィンシーも、呆れたように椅子やベッドに腰掛けるだけで、受け取ろうとはしない。

部屋を支配する気まずい沈黙を破ったのはウィンシーのため息だった。
「ねぇ、あなた、そんな事でいいと思ってるの? パーティの命を守るという事、軽く考えてるんじゃない?」
冷たく言い放つ言葉は、演技ではあるが、世間知らずの女神官には見破れない。
「それは…。」
「プッ。」
「あれ、今笑いませんでした?」
「気のせい、気のせいよっ! それよりもバーンなら裏の庭で素振りしてたわよっ!」
思わず噴出したユーヌの足の甲を踏みつけながら、いぶかしがるアレクセイをようやく追い払ったウィンシーが部屋の窓から裏庭を見ると、早速彼女がバーンに声をかける光景が見える。

「じゃあ、俺達は下で宴会でもしてるか。 バーンの奴、どんな顔で出てくるのか楽しみだよな。 なんなら、一晩出てこなくてもかまわないけどな。」
ニヤリとグレイ・エルフが笑みを浮かべた。


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