ある日の雑踏と銃
(文・イラスト:ぺけ)

  


 さいとうさんとブラブラと旅を初めてからしばらくたった後 
 私たちはアルケンスター大公国に来ていた。少し前に依頼で組んだ際にドワーフの人が使っていた銃という武器を見て 
 さいとうさんと私が同時に興味を持ったので、そのまま船に飛び乗りやってきた。 

 旅をしてて分かった事だけど、さいとうさんは”強さ”そのものに関して貪欲だ。 
 刀という形に収まっているから、剣士としての誇りとか大事なのかな。と思っていたが 
 正直相手との勝負に勝つというのがメインであって、弓だって剣だって槍だって使う事に抵抗は無いそうだ。まぁ不意打ちとかは好まないみたいだけど。 
  
 私は私とて新しいものに関しては何でも興味津々なので、お互いの思惑が一致したというのもあるのかもしれない。 
  
 (おい、小娘。見ろ、銃がいっぱい置いてあるぞ) 
 「うっひょー、眼福眼福っすねぇ、1丁くらい買っていきたいところっすね。」 
 私たちは、その時のドワーフの人の紹介で1軒の銃鍛冶屋に来ている。一見さんはあまり通さないらしいのだが 
 「銃のこと、私、気になります!!」 
 と、少し前に、とあるマジックショップの店員がやっていたお願い方法、きらきら目を輝かせて迫るという技を使ったら書いてくれた。いい人だなぁ… 
 店内は完成品から、制作途中の部品まで様々なものが置いてある。こう見ると銃も色々種類があるみたいだ。素人目には長いか短いか太いか細いかくらいの違いしか分からないけど。 

 店内をきょろきょろしたり、鍛冶の中を見ようとして怒られたりしていると、ひとりのドワーフが入ってきた。白ひげで体も引き締まってる所からして、如何にもただの鍛冶師ではなさそうだ。 

 「おぅ、レイノルド。久しぶりだな。もう死んだかと思ってたぜ」 
 「ふん、貴様が銃の暴発で頭を吹き飛ばすよりは長生きするさ」 
 「じゃああと2000年は生きないとな、そのくらいすればひょっとしたらそんな、赤子みたいなミスをするかもしれねぇな」 
 「年寄風情が、過大評価しねぇでとっとと弟子にでも任せたらどうだ」 
 などと、お互い笑いながら罵り合っている。 
 しかし、チャンス。さっきから店の人は銃についてあまりしゃべってくれなかったけど、外から来た人なら。 
 私は迷わず、そのレイノルドと呼ばれたドワーフへと向かっていく。相手は全く気にも留めてないのかこちらを見ようともしないが構うものか。 
 「すみません!、銃について教えてください!私、気になってるんです!」 
 と、再度目をキラキラさせて迫る。店員とレイノルドさんは顔を見合わせて 
 「おい、この人間はなんだ?」 
 「いや、カリー二ムの紹介状持ってきたから入れたんだが、色々製法見せてやら、説明してやらうるさくてかなわなくてな」 
 「ふむ…」 
 しばらくレイノルドさんは考えるように腕を組んだ後、ニヤリと笑って 
 「俺の依頼を聞いてくれたら、教えてやっても」 
 「やります!」 
 やや食い気味に迫るように言った。店員は何をやらせるのか分かったのかにやりと笑って 
 「おいおい、こんな女の子にアレやらせるのかい?」 
 「本気なら出来んだろ、俺もアレだけは、あまり気乗りがしねぇしな」 
 一瞬なんかとんでもないことを言ったのかと心配になったが、それは後でいやというほど分からされることになった。 

 二日後 
 私とさいとうさんは、町から離れた山の中に居た。 
 目の前には凄い腐臭を放つ死体の山、アレとはこれに家畜の糞尿を集めて万遍なくかける事だった。 
 「くっさ!!!本当にくっさ!!!」 
 (おい、小娘。その手で我を触ったら殺すぞ) 
 「さいとうさんも見たいって言ったんだから共犯じゃないっすか!何で私ばっかり!」 
 (いいからさっさと働け、我はここに長く居たくないのでな) 
 「ちきしょ〜!覚えてるっすよ!!」 
 と泣きながら作業している様をレイノルドさんは遠くの方で眺めている。 
 あぁ、何でもやるとは言ったけど、それにしたって、この仕打ちは酷すぎやしませんかね… 

 作業に半日、移動にさらに1日 
 何だかんだで結構長い間使われた気がする… 
 実作業はその半分くらいだけど 
  
 私とレイノルドさんは、とある酒場に来ていた。銃鍛冶はお酒に酔って迂闊に喋らない様、こういう知ってる人だけしか入れない酒場がいくつかあるらしい。 
  
 「さて、ご苦労さん。まぁ、金はださねぇが飯と酒くらいは奢ってやろう」 
 「もぐもぐごくごく」 
 「ってもう食ってるのか、店のアレといい、ちょっとは女性らしい慎みってもんを覚えた方がいいんじゃねぇか」 
 「もぐもぐ、いひゃ、がつがつ、とふに、きょうひ、はいほで、ごくごく」(特に興味は無いので) 
 「なんだかね。変人なんてこんなものか」 
 レイノルドさんもエールをぐいっと呷って、げふぅと大きく息を吐いた。酒はあまりおいしさは分からないけど、何でみんなエール好きなんだろうと不思議に思う事はある。 

 「お嬢さん。銃に関して知りたかったんだな」 
 「ふぁい!」 
 「…とりあえず食べ物は飲み込め、といっても概要と、何でおれたちが銃を作って使ってるかあたりでいいか」 
 「ごっくん…お願いします」 
 「さっきまでは、ふざけていたが、目が変わったな。そのくらいは本気でないと教える方もやりがいがない。」 
  
 「まず、銃とは、爆発で鉄の塊を打ち出すものだ。爆発にはお前がさっきやった死体の山から調合した黒色火薬を使う。こいつは非常に燃えやすく爆発力もある。」 
 「つまり弓とかと似たような感じっすか?」 
 「まぁ、何かを飛ばすという意味ではな。ただ銃は優れている点がある。弓より遠くまでまっすぐ飛ぶということだ。」 
 「確かに弓とかは山なりに撃つっすね。」 
 「まだ発展段階の為、あれよりちょっと水平に構えられるくらいだが、それでも思った地点に飛ばしやすくなっている。」 
 「発展段階ということは、もっとよくなるんすか?」 
 「可能性は高い。今こそ火薬はあまり広めない様にしているが、技術が確立されてしまえば、弓よりもっと楽に狙えたり、もっと小弓よりもっと小さいサイズで打ち出したりできるかもしれんな、その為に俺たちは日々互いのコンセプトのもとに研究をしている。」 
 「コンセプト?」 
 「あぁ、銃は様々な発展があるだろうが、それぞれの銃鍛冶がいくつかの目的に基づいて研究をしている。例えば小型性を重視したり、連続で射撃できることを重視したり、とな」 
 「なるほど、レイノルドさんは何のコンセプトで動いているんすか?」 
 「俺は、弓より遠い場所から、正確に狙った所に弾を飛ばせるような銃を創ろうとしている」 
 「ほぅほぅ」 
 「まぁ、俺も独り身だからな。歳も歳だし技術を伝承させなきゃならないんだが」 
 「じゃあ私が」 
 「お嬢ちゃんじゃだめだ。落ち着きないだろ?火薬と言うのは器用さと慎重さが必要なんだ。それに、それだけに特化して研究してもらう必要がある。」 
 「あ、それ無理っすね」 
 (この小娘に落ち着けなどと、隕石を降らせろと言っているようなものだな) 
 「そういうことだ。まだ体が動かないわけではないし、じっくり探すさ、で他に聞きたいことは」 
 「じゃあ…銃の…」 
 「あぁ…そいつは…」 
 その後も質問攻勢は長く続き、酒場を出るころには早朝になっていた。 

 「う〜太陽が目にくるっす〜」 
 目をしばしばさせていると、後ろから出てきたレイノルドさんが呆れ顔で 
 「ったく、どんだけ質問してくるんだか…」 
 とため息をついていた。 
 「とりあえず、宿に戻るっす。長々とお付き合いありがとうございました。」 
 と深々と頭を下げた。レイノルドさんは少し照れたように 
 「なんだ、いきなり。散々ぶしつけな質問ばっかりしてきたくせに」 
 「師匠から、物事を教えてもらった師には最大限感謝をするようにと言われてるっすよ」 
 「…弟子はアレだが師匠はまともそうだな。」 
 (全くだな…) 
 2人とも酷いと思う。 
 「じゃあまたな。お嬢さん。本当に稀になら相手をしてやってもいいぞ。」 
 とレイノルドさんは笑いながら雑踏へと消えていった。 

 「ふぁぁ、さて宿で寝るとするっす。」 
 (そうだな、知識も得たし。後は銃を買うだけだな) 
 「それは非常に魅力的提案っすけど、今の私たち金そんなにないっすよ」 
 (そうだな、お前がまた変なマジックアイテムを買ったせいでな) 
 「いや、アレ、レアものっすから。絶対価値あるっすから」 
 (戦闘で使えないアイテムなど価値があろうと関係なかろう) 
 「いやいや…あれはっすねぇ」 
 と、はたから見たら一人問答の怪しい人に見えるかもしれませんが、気にせず宿まで、毎度やっている言い争いは続きました。 





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