港にて

(文・ぷらなりあ)

二週連続投下ですw

見送りがいたら、アンデッドになったパーティーを見てさぞかし驚くだろうなあというところから作った話です。
ついでにロッテの姉アリアと、「クレリックがいたら一パーティー」の話があったので、アリスにくっついて行きたがりそうなクレリックも出してみました。
まぁ、おバカやらせてるだけですけどねw
今回は船長、クー、ターニャがちょっとだけ出てきます。
口調違う、こんな事言わん!等のクレームがあったら教えて下さいねー。





「おーい、アリスさーん。 客が来てるぞー」
「客ぅ? 誰だろ」
 船出を目前に控えたシータイガー号で荷物の積み込みを手伝っていたアリスは、甲板員の一人に声をかけられた。
 しかしアブサロムに来たばかりのアリスには、自分を指名してやってくるような客の心当たりがない。
ついつい怪訝な顔を向けると、船員も少し考えるような顔をして答えてくれた。
「よくわからんけどキレイなねーちゃん二人と小汚いガキどもだったな」
 子どもたちと言われれば、アリスにはすぐにピンとくるものがある。
「ん? ……ああ、ロッテと子どもらと……ま、行ってみりゃわかるか」
「もうそろそろ風が変わる。 そうしたら出港だから、早く戻れよ」
「わかった。 ちょっと行ってくる」
 渡し板に向かおうとするアリスに、船員たちに指示を飛ばしていたスケルトンに扮する船長が声をかけてくる。
 それに軽く片手を上げてこたえると、少々顔色の悪いアリスは桟橋へと降りて行った。


「アリスさーん!!」
「「「アリスねーちゃん!」」」
 アリスに駆け寄ってきたのはやはり裏町の子どもたち、そして先日娼婦街で危地に陥っているところを救出したハーフエルフの少女、ロッテである。
「来てくれたのか、みんな」
「あたりまえさ! だってアリスねーちゃんのしゅつげきだもん!」
「かーちゃんたちもほんとうはきたかったんだけど、あさはやくだからむりなんだー」
「うぇーん! いっちゃやだー!!」
 子どもたちはてんでに礼や激励や説明や駄々を口にしながらアリスに纏わりついてきた。
「アリスさんが困難な冒険に向かわれるのに、激励に来ないとか有り得ませんっ!」
 ふんっ!と拳を握って力説するのはロッテである。
「あ、それと、アリスさんのアドバイス通りアズラント砦で調べて貰ったらすぐに姉さんと会えました! アリスさんの紹介って言ったらとても親切に調べてくれたんですよー!」
「……単純にロッテが重要事項をきちんと伝えないからそれまで見つけられなかったのだと思う」
 ロッテがハイテンションで解説していると、静かにそう指摘しながらゆっくりと一人の女性が近づいてきた。
 落ち着いた物腰、小さな丸い眼鏡をかけたバイオレットの瞳、肩口に届く程度のシルバーブロンドの髪……。
 チェインシャツに身を包み、腰にカタナを下げたその人は、少し大人びてはいるが髪の色といい瞳の色といいロッテにそっくりである。
 ある一点を除いては。
「あ、あれ? もしかしてロッテのお姉さん? ……双子って言ってなかったか?」
 目を@@←こんな風にしてアリスが混乱していると、やれやれと言った風にその女性は肩をすくめ、隣のロッテの頭をぽかりとやった。
「あいたっ! 姉さんなにするのー」
「ただ双子と言って私とロッテを並べたら誰だって混乱する」
 それはそうだ。
 なにしろその女性は人間で、外見年齢も結構上に見えるのだから。
「でも双子じゃ〜〜ん」
 涙目になって頭を抱えるロッテを無視し、彼女はアリスに向かって丁寧に一礼すると、淡々と自己紹介を始めた。
「はじめまして。 私はリーセアリア・ハーヴェイと申します。 以後アリアと及び下さい。 ……先日は愚妹が危ういところを助けていただいたようで、感謝の言葉もございません」
「……いや、礼はロッテの危機に気が付いた子どもたちに言ってくれ。 俺は子どもたちの依頼を果たしただけだ」
 子どもたちの頭を撫でながらアリスがそう答えると、子どもたちは「えへへー」と誇らしげに笑う。
 そしてアリアは、うっすらと微笑みを浮かべると膝を折り、子どもたち一人一人の手を握った。
「……妹が無事なのは君たちのおかげ。 ありがとう」
 照れ隠しなのか、子どもたちはアリスの背後にまわってしがみついてしまった。


「へ〜〜。 アリアは人間なのか〜〜」
「はい。 両親ともハーフエルフなので、子どもは人間かエルフかハーフエルフになるのです。 そのため双子でも私は人間でロッテはハーフエルフに生まれつきました」
「びっくりしたよ〜〜。 これじゃあちらっと調べたくらいじゃわからないわけだ」
 やはりアリアはメイガスだという。
 アリスの仲間で同じくメイガスのクーセリアには及ばないまでも、相当に高レベルのようだ。
「見た感じ歳も違うし、言われないと双子だとはわからないな。 姉妹ってのはすごく納得がいくんだけど。 よく似てるし」
「……愚妹が子どもっぽ過ぎるんです」
 二人は23歳だというが、ハーフエルフにとっては成人したかしないかかもしれないが、人間の女性は23歳ともなれば妙齢である。
 見た目の印象が違うのは当然の事と言えよう。
 だがアリアにとっては看過出来ない何かがあったようで、それまでほとんど感情の動きを感じさせなかったかんばせを少し紅潮させた。
 ……その様子を見て、アリスは喉元まで出かかっていた「クーとも同じ年とは思えないほど落ち着いて見える」という感想を飲み込んでいた。

「アリス様〜〜〜!!」

 アリスが色々納得していると、更に街の方から手を振りながら駆けてくる人影があった。
 ……またしても若い女性である。
 今度の彼女は白い神官服を着ている。
 首から下げている聖印はサーレンレイの物のようだ。
「げ、シスタークリスカ……」
 手を振りかえしつつも、アリスの笑顔が少々引き攣った。
 シスタークリスカと呼ばれた若い女神官は、一直線に走ってくるとアリスの胸に飛び込んできた。
「アリス様! 私に何の連絡もなくもう出発だなんてひどいですわ! 」
「いや、別にサーレンレイ神殿は今回あまり関係ないから……」
「こらーーっ! いきなり私のアリスさんに抱きつくなーーーー!!」
「……アリスねーちゃん、もてるなぁ」
 一人追加登場しただけでいきなりカオスである。
 なお、アリスを中心にわいわいと固まっている脇でアリアは「やれやれ」と肩をすくめていた。
 ちなみに今やってきたクリスカは、見ての通りのサーレンレイのクレリックである。
 赤ん坊の頃地方のサーレンレイの礼拝堂に捨てられていた彼女は、子どもの頃から熱心に修行し今では若いながら相当な力を持っているらしい。
 そんな彼女だが、戦死した船乗りの子どもたちの中に天涯孤独になった子がいると聞いて援助を行ったアリスに出会い、かなり感化されたというか惚れ込んでしまったのだ。
「あれ? アリス様、お顔の色が優れないようですが……」
 わーわー騒いでいるうちに、根が衛生兵のクリスカはアリスの様子がおかしい事に気が付いたようだ。
 まぁ、実際のところおかしいどころではないのだが。
 じっと顔を覗き込み、
「うーん。 やっぱり顔色が悪いです。 それに目も赤いし」
 そして喉の様子を見ようとして、
「あーんしてくださいね……あれー? こんなに八重歯目立ちましたっけ?」
 そして手を取り……
「……手、冷たすぎませんか? それに脈が拾えない……」
 彼女はプロフェッショナルである。
 しかし該当する状態はひどく不吉なものである事に気が付き、クリスカは懸命に首をぷるぷると振った。


「言われてみればそうですねー。 風邪とか二日酔いとかですか?」
 クリスカがテンパって内向きな思考に落ち込んでいる頃、能天気なロッテや子どもたちもアリスの変化に気が付いていた。
「ほんとだー。 アリスねーちゃんなんだかひゃっこい」
「おめめもまっかだよねー?」
 それらの疑問に、アリスは苦笑いしながら答えた。
 まぁ、彼女自身も詳しい事は理解していないのだろうが。
「アンデッドだらけのゲブに行くから、アンデッドのふりをしているのさ。 だからほら、吸血鬼〜〜!」
 そう言ってアリスが八重歯ならぬ牙をにっと出して笑ってみせると、子どもたちはきゃーきゃー言いながら喜んでいる。
「すごーい! まほう? まほう?」
「ばんぱいやだー! こわーい!!」
「よくわかんないけど魔法みたいだな。 だから血を吸わせろー」
「……どんな魔法なんだろう。 興味深い」
 呆然自失のクリスカを置き去りにしてはしゃぐ一同に、そんな時声をかけてくる者がいた。
「大人気っすね、アリス」
「もうじき出港ってヒエンが言ってるよ〜〜♪」
 渡し板から降りてきたのは……。
 片やミンカイ風の衣装を身に纏った、ガイコツ。
 片や小柄な体躯の、半分腐ったような歩く死体。
「別にそういうんじゃないぞ、クー。 今行くよ、ターニャ」
 アリスはのんびりと答えたが、はじめて「それ」を見た他の面子はそうはいかない。
「きゃー!! おばけーーー!!」
「スケルトン? ゾンビ? なんでこんなところに!?」
「……〈キーン〉、〈フレイミング〉」←いきなりカタナに秘術集積を付与しているらしい
 それらの(中には過激な)反応に慌てたのはもちろんアリスである。
「いやいや! 俺の仲間だから! 俺と同じアンデッドの仮装だから!!」
 カタナに炎を纏わせて突入しようとするアリア。
 あわあわと割って入るアリス。
「え? 仮装?」
 すんでのところでアリアの刀は止まった。
 アリアだけではない、アリスの背後ではクーセリアも咄嗟にカタナを抜き合わせようとしていた。
「ふう、驚いたっす〜〜。 なかなかいい腕っすね」
 口調からするとニヤリとしたといった風のクーセリアの言葉だが、なにしろ今の格好ではさっぱり表情が読めない。
 アリスもそれに気が付いて苦笑するばかりだ。
「……まぁ、普通ビビるよな」
「アリスは上手く格好を選んだみたいだけど、普通はこんなんになると思うよ〜」
 さりげなく組んでいた魔法の印を解いたターニャの姿も、ある意味いかにもアンデッドのそれだ。
「ディバインバスターのおかげでどうしてもヴァンパイヤを想像しちゃうんだよなぁ」
「ばんぱいやってにんげんそっくりだねー」
「だねー」
 一瞬訪れた緊張がたちまち解け、一同はあっはっはと笑いあった。
 多少絵面は不気味だったが。
 が、その時。
「はっ!」
 ずっと自分の世界に飛んでいた彼女が現実世界に還ってきた。
 そう、クリスカだ。
「ああ、気が付いたか? シスタークリスカ。 彼女たちは俺の仲間の……」
「ソンビッ! スケルトン!?」
 クリスカのセリフはまるでさっきの邂逅の録画だった。
 そしてクリスカはサーレンレイのクレリック。アンデッドの天敵である。
「嫌ぁーーーーーっ!! 神よ!! 常世の住人どもに、日輪の裁きを!!」
 
 ぴかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!(半径30フィートが太陽の輝きに包まれた!)
 
「「「みぎゃーーーーーーーーーーー!!!!!」」」
 間もなく風が変わろうかという朝の港で、アリス、クーセリア、そしてターニャ3人の悲鳴が朗々と響き渡っていた。




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