アフターワードに至る道?〜ある出会い〜

(文・ぷらなりあ)

「エンディング」って考えてもなかなか難しいですよねー。

なのでアリスに「ある出会い」を用意してみました。
この出会いは「砂漠の隼」ではなくなったアリスの、次の道に繋がっているかもしれない……という趣向です。
ゲブ行きの後、クーとずっと一緒に行けるかもしれないし、行けないかもしれないですからねえ。
アリスはパスファインダー協会員ではありませんし……。
ま、それ以前に生きて帰ってくるかわからんのですけどねw
無事に戻ったら「この出会いから繋がる未来」も考えてみようと思います。

ともあれ。
この話は「アブサロムに戻った後」「ディバインバスターを貰う直前」です。
さりげなくテンペストの最後の活躍もありますので、暇な人は見てやってくださいw




 内海中央部に位置するコルトス島にある巨大な都市国家アブサロムは、内海地域最大の都市であり、また多くの賢者・勇者を擁する冒険者の町でもある。
 ……つい最近、そのアブサロムにとってさえ恐ろしい災厄が発生した。
 エイローデンへの憎しみに燃えるミ=ゴたちによってもたらされた巨大なショゴスがこの街に迫ったのだ。
 ショゴスは迎撃に向かったアブサロムとその友好国の連合艦隊を悉く打ち砕き、飲み込み、足を鈍らせる事さえほとんどなかった。
 それを知った指導者たちは、どれだけ犠牲が出るかはわからないが陸上で迎え撃ち、街に立て籠もって戦うしかないと悲壮な覚悟を決め、残された戦力に総動員令をかけて怪物の襲来を待っていた。

……だがショゴスがアブサロムに到達する事はなかった。
 ショゴス封印の技法を知るという謎の男と、先だってケルマレインをノールの手から奪還した『砂漠の隼』と称する冒険者の一団によりミ=ゴたちは倒され、ショゴスもいずこかへ封印されたのだ。
 艦隊こそ大打撃を受けたものの、都市や民間人への被害はおおむね免れ、アブサロムは歓喜の喧騒に包まれていた。

 一時航路が封鎖された鬱憤を晴らすように、アブサロムの各港には各地へと出発する船、到着する船でごった返し、人々の流れもまた以前にも増して多くなっていた。
 特に椅子の空白や、ショゴス戦のおこぼれに期待する玉石混合の冒険者たちが大勢押しかけたのだ。
 そんな中、一人の小柄なハーフエルフの少女がアンドーランからやってきた貨客船より桟橋に降り立った姿を見る事が出来る。
 革の軽装鎧に身を包み、腰にはグラディウスと造りの良い矢筒をぶら下げた姿を見る限りどうやら彼女も冒険者のようだ。装備は非常に貧乏くさいが。
 ともあれ……彼女の名はリーセロッテ・ハーヴェイ。なかなかの腕を持つ弓兵タイプのローグ/レンジャーである。
 これから彼女は『砂漠の隼』のメンバーの一人、アリスと偶然縁を持つ事になるのだが、その様子をロッテの視点で眺めてみよう。

     ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

「さすがアブサロム、大きいなぁ〜〜」
 いや〜〜、やっと来れたよ〜〜。
 アブサロムの港が全部封鎖されたって聞いた時はどうなるかと思ったけど……。
 それにしてもショゴスってのに狙われたのに無事で済んじゃうなんて、すごいなぁ。
 砂漠の隼……だっけ?今もこの街にいるのかな?
 どんな人たちなのかなー?
 ……私もいつかそんな人たちと一緒に旅をしてみたいなぁ。
 うん。そのためには早く姉さんを見付けなくっちゃ。
「よっしゃー! まずはパスファインダー協会だー!」
 気合を入れて行ってみよう!

「リーセアリア・ハーヴェイさんですか……」
「そうですそうです。 双子なので外見は私とそっくり……こんな風なバイオレットの瞳にシルバーブロンドの髪で、姉さんはメガネかけて髪はセミロングにしてるのが違うくらいなんですが」
 パスファインダー協会は知識を求めてこのゴラリオンを探索して回るパスファインダーたちの協力組織、みたいなものらしい。
 謎の十人委員会ってのがトップとか、世界の謎を調べる事が出来ればなんでもいいから善悪気にしないとか、ちょっとよくわからない組織だから私はあまり入りたくないかな。
 でも好き嫌いはさておき冒険者をやってると関わらざるをえないんだよねー。
 私とはぐれてから姉さんがここに入ったかどうかわからないけど、とりあえず聞いてみなきゃ。
 学者型の姉さんならあり得る話だしね。
「とりあえず正式なパスファインダーとして登録されてはいませんから、協会の方ではわかりかねるんですよ。仕事の斡旋の記録を調べるとなると、余程の有名な冒険者でもない限り一人一人の名前まではねえ」
「そうなんですか……」
 やっぱりなぁ。姉さんはフリー気質というか、マイペースだものね。
 それにしてもやたら混んでるわ、なんだか妙に忙しそうだわでこれは無理っぽいなぁ。
「お姉さんはメイガスでしたかな? なら傭兵というよりは冒険者ですよね。 賢人区にある魔法学校や、でなければソサエティのメンバーがよく利用する冒険者御用達の宿屋でも探してごらんなさい」
「うー、わかりました。 色々教えてもらってありがとうございました」
「はいはい。 お役にたてなくて」
 収穫はなさそうだし、次に向かおうかなー。
まずは魔法学校、あとはソサエティの人たちのよく使う店ね?
 うーん、ソサエティの人たちに出かけちゃってる人が多いっていうのが痛かったなぁ。


「はぁ、くたびれた……」
 今の宿で何件目だったかなー?
 アブサロムなら冒険者がたくさん集まるから、姉さんもここに来ているかもしれないっていうのは我ながら悪くないと思うんだけど、冒険者がたくさんい過ぎて探しにくいのは誤算だったよ〜〜。
「えーっと、所持金は……」
 財布を開いてみると……うわー、心もとないなぁ。
 と言っても売れるような装備は換金しちゃったし、また短期の仕事でもするしかないかな。
 これ以上装備売ったら冒険も出来なくなるし……。
「それにしても……」
 姉さん、どうしてるかなぁ。
 ウースタラヴの遺跡で魔法の罠に引っかかって離れ離れにテレポートしちゃってから2年か……。
 戻ってるとは思わなかったけど里にもいなかったし、どうしたんだろう。
 姉さんは私より余程強いんだからきっと無事だよね……。
 まったく、いくらお宝がありそうだからってあんなアンデッドだらけの遺跡を狙ったのが間違いだったんだよ〜〜。
 やっぱり冒険は姉さんと二人か、もっと良い目的で冒険するパーティーと一緒がいいね。
「さてと、暗くなってても仕方ないよね」
 まずは今日の宿を探して、そして明日は何か冒険か仕事の口を探そう。
 何をするにしても先立つものがないとね。
 確かアブサロムには昔の地震で放棄された廃墟地区があるんだっけか……。
「やあ、姐さん。 人探しだって? もしかしたら役に立てるかもしれないぜ」
 色々思い巡らせていたその時声をかけてきたのは、いかにも裏通りの住人という風体のニヤけた男。
 あまり信用出来るとも思えないけど……。
「一応ね。 なに? 情報屋なの?」
 とはいえ今はどんな手がかりでも欲しい。
 情報屋だとすればどのくらいお金を要求されるか……でも踏み込み過ぎない程度には聞いてみたい。
「俺は情報屋ってよりは斡旋屋さ〜。 姐さんがお困りのようだから俺は人探しに詳しいヤツを紹介する、首尾よく情報が聞けたら姐さんと情報屋から駄賃を貰う……そういう寸法さ」
 へらへら笑っててなんだか裏があってもおかしくない感じだけど……情報屋とつなぎが付くかもしれないってのは見逃したくないな。
 それに、アーチャーの私でも正直こそ泥一人くらいなんとでもなるしね。
「じゃあ頼もうかな。 でも金は情報を聞いてからだよ」
「そうこなくっちゃ。 じゃあ姐さん、後をついてきてくれ」
 腰のグラディウスと、姉さんに作って貰った「スコーチングレイ」のワンドをちょっと確認して、私は暗い裏通りに滑り込んでいく男の背中を追うことにした。

「ここでさ」
 男が示したのは、相当古びた、そのくせ壁は品の悪い顔料で朱く塗られた酒場というか宿屋のような建物だった。
 やっぱりアブサロムにもこういう所があるよねー。
 いくつかの小路を抜け、辿り着いた「いかにもな裏通り」は、どう見てもいわゆる娼婦街。それもかなりランク低そう……。
 まだ歩いている客はそれほどいないようだけど……ところどころに立っている娼婦たちや子どもたちは一様に痩せ、身なりもみすぼらしい。
 う、なにやら同情されてるっぽい視線が……。
 うわー、猛烈に嫌な予感がしてきた……。
「さあ、中に入ってくんねえ」
 おそるおそる中を覗くと、
「こういう所なんでさ〜、早く入ってくれよ〜〜」
「ちょ、押さないで……」
 がちゃん!
 斡旋屋にぐいぐい押し込まれてしまい、そして思いの外大きな音がしたと思ったら、もう扉が閉められてる!
「なにするのっ!」
「なにって……姐さんもある程度は感づいてたんじゃないのかい?」
 斡旋屋のへらへらしたにやけ顔に、今は明らかに侮蔑の表情が混じってる……。
 くっそー!!騙されたわけじゃない、と言いたいところだけどすっごいむかつく!!
「よぉ〜〜、チャック。 また生きの良いハーフエルフのねえちゃんだな〜〜」
「やぁ、兄貴〜。 この間のハーフエルフは逃がしたって言ってたでしょ? だからまたひっかけてきましたよ〜〜」
 複数の足音を感じて振り返ると、いるわいるわ……。
 ガラの悪そうな野郎ばっかり10人近くはいる感じ。
 それもただのこそ泥というよりは多分戦士の冒険者崩れ。 っていうか強盗? 山賊?
 これはちょっとやばいかも……。
 タイマンならともかく、私は接近戦向きじゃないからなー。
「ご苦労ご苦労、ハーフエルフは高く売れっからなー」
 そういやそうでした……。


 見た目エルフっぽいけどさりとて人間離れしてなく、長生きで病気にも強いから人間の娘よりずっと長持ちするハーフエルフは、娼館に高く売れるらしい。
 私も姉さんもこの素敵な容姿(てへ☆)だからよく狙われるのよね〜〜。
 冒険者になってからは簡単にかわせる様になったから、少し頭から飛んでたわ。
 こうなったら剣に物を言わせて……。
「それもなかなかの別嬪さんじゃないか。 よくやったぞチャック……って、あれ?」
「どうしやした? 兄貴〜」
 今にも剣を抜こうとしたけど、兄貴と呼ばれてる首領っぽい男が私の顔をまじまじと見つめて首をひねっているので、ついつい手を止めてしまった。
「このねーちゃん、なんか見覚えがあるような……」
 え? どういう事? ……まさか姉さん!?
「うわ! この間の魔法剣士!」
「魔法剣士!? もしかして姉さんがここに来たの!?」
「ねえさん〜〜〜? お前あの魔法剣士の妹か!!」
 私の言葉を聞くなり、首領はいきなり顔を歪めて掴みかかってきた!
 しまった〜〜! 剣抜く余裕が……。
「きゃっ!!」
 姉さんの事に気を取られて不意を突かれたっ……!
 どさっ!
 痛っ! なに? 長椅子か何か?
 まずい、押し倒された体勢だと私の力じゃはねのけられない!?
「あんたもそこそこはやるようだが、魔法は使えないみてぇだな〜〜。 あんたのねえちゃんにいっぱい食わされた分まで可愛がってやるぜ。 たっぷり味見させてもらった後売っ払ってやらぁ!」
 だめっ! こう何人もにかかられちゃ抜け出すのも無理っ!
 やだ! こんなところでこんな連中に……。
「は、早くやっちまいましょうぜ、兄貴〜〜」
「慌てんじゃねえ! 時間はたっぷりあるんだからよぉ〜〜」
 いや〜〜〜! 姉さん! 姉さん!!
「助けてっ!姉さん! 姉さーーん!!」
「へっへっへ! 誰も助けに来るもんか! ばぁ〜〜〜っか!!」

 だーーーーーーん!!!

「な、なんだぁ!?」
「女の子一人にずいぶんと情けない連中だな。 さっさと離れろ」
 ……え? 女の人の声……?
「てめぇ! なにもんぶきゃあ〜〜〜!!」
 ドカッ!
「やりやがったなこのアマぁ〜〜へぎゃっっ!!」
 ゴッ!がしゃーーーん!
 え? え? え?
 なに? 何が起こってるの?
「なんだこのアマ俺様たちを誰だとぅお〜〜〜〜ぉお!?」
 私に覆い被さっていた首領は、激怒しながら半身を起こすなり、そのまますごい力で私から引っぺがされてしまった。
 そして姿が見えたのは……。
「やかましい。 お前らなんか知らん」
 首領をぽいっと捨て、優しく手を引いて私を立たせてくれたのは、私より4インチは背の高い人間の若い女性だった。
 服装からすると冒険者なのだろう。
 薄手の砂漠用のローブの下に鎖帷子を着て、背中に両手剣を吊るしている。
「無事だったかい? ……もう大丈夫だ」
 そして明るい茶色の髪と綺麗なエメラルドの瞳のその人は、優しく微笑んでくれた。
「あ、あなたは……」
「てめぇ何モンだ〜〜!!」
「ぶち殺すぞこのアマァ〜〜!!」
 空気読んでよ〜〜このチンピラ連中〜〜!
 すると、私に向けては優しい曲線を描いていた彼女の眼尻と眉が、きりりと吊り上っていった。
「……俺は通りすがりの冒険者、アリスって者だ。 道を空けろ、この娘さんは貰っていく」
 アリス、さん……。 出で立ちは凛々しいのに可愛らしいお名前……。
 ……ううっ! カッコいい!
「なにぃ〜〜? アリスだぁ〜〜?」
「……あ、兄貴兄貴、グレートソード持ったアリスって言ったら……」
「まさか砂漠の隼の……」
 アリスさんの名前を聞いた途端、連中ざわざわしはじめたわね。
 砂漠の隼? 砂漠の隼って言ったらショゴスを封印したあの?
「ば!ばかやろうっ! 怪物封印するような女戦士がこんな小娘のわけねーだろ!」
 お〜お〜、首領の血管がぶちぶちいってる……そりゃそうだよね、このままじゃ面目丸つぶれだもの。


「野郎ども、構う事ぁねえ! 刻んじめぇ!!」
「おう!」
 わ! こいつら剣抜きやがった!
 こんな街の中で斬り合い? ……って、もしかしなくてもここらは無法地帯なのか〜〜。
「ふう……」
 え?
 心配になってアリスさんを見上げると、彼女はやれやれという風に肩をすくめたかと思うとニヤリと酷薄な笑みを浮かべた。
 この人は…………やっぱり本物の戦士だ。
 本当に砂漠の隼の人なんだ、と直感出来た。
 アリスさんは背中から剣を引き抜くと、小さく「テンペスト」とつぶやいた。
 すると、彼女の剣の刀身から青白い光がこぼれ、間もなく白くてキラキラと輝く粉雪の様なものが舞い始める。
「無法な男にかける情けは、せめて一撃で地獄に送ってやる事くらいだ。 さあ、いつでも来い」
「うぬぬぬ……舐めやがって……。 てめえら! 一気に行くぞ!」
「「「うおおおおおーーーーーーー!!」」」

「もう終わりか?」
「「い、命ばかりは〜〜!!」」
 ……すごかった〜〜。
 20人くらいいたチンピラどもは、あっという間に半分以下になっちゃった。
 アリスさんに斬りかかった連中はほとんど皆一刀のもとに斬り伏せられ、半分凍った姿で常世に飛ばされた。
 私にちょっかいを出そうとした連中もいたが、そいつらも同じ運命をたどった。
 首領はそれなりに遣えるようだったが、アリスさんの前では全く歯が立たずたちまち氷なますにされるに至り、残っていたチンピラたちは皆逃げ散るか、武器を捨て床に身を投げて降参した。
「なら死体を担いでとっとと失せろ」
「「は、はいーーー!」」
「そうだ。 武器と財布は置いて行けよ」
「「は、はい〜〜〜」」
 うわアリスさんマジ鬼!
 でもまぁ当然だよね。
 いらない運動させられたんだから少しくらいお小遣いをもらわないと。
「あ、あの……アリスさん。 本当にありがとうございました」
 とにかくまずお礼を言わないと……。
 そう思って頭を下げると、アリスさんは苦笑いしながらパタパタと手を振った。
「礼ならあの子たちに言ってくれ。 俺は子どもらに頼まれた事をしただけだ」
 アリスさんが指さした方、蹴り破られた入口の方を見ると……あ、子供が何人か中覗いてる。
 皆一様にみすぼらしい恰好をした、きっとこの街の娼婦の子たちなんだろう。
「……アリスねーちゃん、もうだいじょうぶ?」
「ああ。 悪い奴らはやっつけた。 このお姉さんも無事だよ」
 さっきの修羅のような姿からは想像も出来ない優しい雰囲気をまとったアリスさんがそう言った。
 子どもたちは歓声を上げて抱き合い、喜んでいる。
 ……すごい。もしかしたらこの人は天使の心と悪魔の手を持ってるんだ。
 つい数分前十人近い人間を地獄に送った人なのに、子どもたちはその人の前でもう屈託なく笑ってる。
 子どもって殺気とかにすごい敏感なのに……。
「さあ、お母さんたちを集めておいで。 こいつらが貯め込んでる借金証文や、みんなのお金を取り戻しちゃえ、ってさ」
 あれ? お金、アリスさんが貰うんじゃないの?
「ああ、あなたも何か盗られたなら早く取り返した方がいい。 もうじき街の女衆が押しかけて来て、吸い上げられたものみーんな持ってくから」
「私は大丈夫だけど……そんな、どうして? あいつらをやっつけたんだからアリスさんが貰うのが当たり前なんじゃ?」
 そう聞いてもアリスさんは悪戯っぽく笑って首を振った。
「あいつらの宝物ならね。 でもここにあるのは街の人たちから吸い上げた金だ。 みんなの金なんだもの」
「アリスねーちゃん! かあちゃんたちよんできた〜〜!」
 子どもたちに続いて娼婦たちが次々に入ってきた。
 みなアリスにぺこりと頭を下げると、そそくさとチンピラたちが溜め込んだおたからに向かっていく。
 娼婦たちを押しのけんばかりに入ってくるガラの悪い男などもいるが、アリスさんの姿を見るとそそくさと逃げて行ってしまう。
 ……そしてアリスさんは子どもたちを腰に纏わりつかせ、幸せそうに微笑んでいた。
「アリスねーちゃんだーいすきー!」
「あたしもおおきくなったらようへいなるー!!」
 本当に子どもたちは楽しそうだ。
 ……きっとアリスさんが大好きなんだろうな。


「俺にはこの子たちが笑ってくれるのが一番の報酬さ」
 こういう人と一緒に旅をしたら、やりがいのある、もし死んじゃっても悔いのない冒険が出来るのかな?
 アリスさんは気持ちの悪くなる戦いはしたがらないだろう。きっとそうだ。
「え〜〜〜っと……」
 あれ? アリスさんが私の顔を見てちょっと困った顔をしてる?
 ……あ、そうか。
「名乗るのが遅れてすみません。 私はリーセロッテ・ハーヴェイ。 ロッテ、と呼んでください」
「ロッテ、か。いい名前だね。 なあロッテ、君も冒険者だろうに、こんなチンピラの巣にうかうかと連れ込まれちゃダメだよ」
「ううっ、返す言葉もありません……」
 あうう、叱られちゃったよ〜〜。
「ホントどじだなぁ」
「アリスねーちゃんいなかったらいまごろペシュのまされて、じょろうやにうられてたぞー」
 あうっ! 子どもたちにまで言われ放題っ!
 そりゃそうだよね、どう考えても迂闊過ぎるもん〜〜。
「なんだってまた簡単に騙されちゃったんだい? 子どもたちはエセ斡旋屋に釣られたみたいって言ってたけど、何か調べもの?」
 すごいな子どもたち。 見事な推理、その通りだよ。
「はい、まぁ、ちょっと……。 2年前にあるダンジョンではぐれた姉を探してるんです」
「ほう? どんな人だい?」
「リーセアリアって名前の……私の双子の姉なんです。 姿はメガネかけてるのと髪型以外は私とそっくりで、メイガスなので腰にシミターを下げてます」
 そういえばここの連中も知ってる風だったけど……。
「どうもここのチンピラとひと悶着あった様なんですよね。 まぁ、詳しい事は聞けませんでしたが」
 するとアリスさんは「あちゃー!」という表情になった。 ……可愛い。
「しまったー! ボスなますにした上に生き残り逃がしちまった!」
 目を><にして天を仰ぐアリスさん。
 ああもう、あなたのせいじゃないですよ〜〜!
「や! 本当にただ悶着あっただけみたいですから! アリスさん何も悪くないですから!」
「……めいがすってまほうつかうせんしだっけ?」
「だったらこのあいだのねーちゃんじゃない? そらとんでにげた」
 な、なんですとー!?
「えっ!? 君たち何か知ってるの?」
 そう言うと、子どもたちはてんでに話し始めた。
「しってるー! チンピラにだまされたー!」
「いもうとさがしてたんだって! まほうでそらとんでにげた!」
「やまにいったはずだよー! みんなにげるとこさがしに!」
 あわわわ! なんか大事な事も言ってそうだけどわけが分からなくなった!
 するとアリスさんがしゃがみこんで、子どもたちの頭を撫ではじめた。
「ほらほら、ロッテおねえちゃんが困ってるぞ。 この前教えただろう? 何か話す時は『いつ』『誰が』『どこで』をはっきりしないとわからないんだぞ?」
 うわ、子どもたちに兵隊の心得を教えているんだ。
 でもそうしてもらえると助かる〜〜。
 それにしても子どもたちはアリスさんの言う事をよく聞くなー。
 アブサロムの出身なのかな? この街で育った顔なじみとか?
 そんな事を考えているうちに……。
「ふんふん。 つまり、ショゴス騒ぎが起きる少し前、妹を探す情報を貰えるって騙されたメイガスの女の子が、チンピラを蹴散らして空飛んで逃げて、お前たちがかくまってやった、と」
「そうそうー!」
 子どもたちにあーでもないこーでもないと話を聞いていたアリスさんが、早々に話をまとめに入っていた。
 すごいなー、アリスさん!
「それと、ショゴス騒動が始まって何日かした時そのメイガスがお礼をしに来て、その時にコルトス山脈に避難場所を確保する冒険に行くって言ってたわけだな?」
「そうだよー! ごはんやおだちんくれたんだよー!」
「で、そのメイガスさんはこのお姉ちゃんに似てたんだね?」
「「「にてたにてたー!」」」
「よーし、よくわかったぞー! お前たちいい兵隊になるぞー!」
 や、アリスさん。 それはそれでどうかと。
 それはさておき……。
「じゃあ、姉さんはコルトス山脈にいるかもしれないんだ……」
「そのようだな。 一応詳しい行先を聞いてみるんだな。 ソサエティかアズラント砦で聞いてみればわかるだろうし。 不親切だったら俺の名前を出してもいいよ」
 う〜〜ん、本当にこの人は優しいなぁ。
 私なんかただの通りすがりのドジっ娘なのに。
「ありがとう、アリスさん……」


「明日か明後日にはまた次の仕事に出かける事になりそうだからついていってはやれないけど、上手く姉さんに会えるといいな」
「「「あえるといいなー!」」」
 え? すぐ仕事に出かけちゃう?
 そんな……折角はじめて姉さん以外で一緒に旅したい人が見つかったのに……。
 よーし! こうなったら!
「あ、あのっ! アリスさん! そのお仕事、私も連れてってもらえませんか!?」
「はぁ? ずいぶん突然だな。 お姉さんを探すんだろ?」
「や! 無事だってわかってもう安心しましたから! 姉さんには縁があればきっとまた会えるですよ!」
 え〜〜〜と、私何言ってる?
 自分でもよくわからなくなってきたぁぁぁぁ〜〜〜。
「でもアリスさんは、今日初めて会ったけど、でも一緒に行けたらきっとすごくうれしい気がして、せっかくの旅なら、アリスさんみたいな人と一緒がいいなって!」
「「おれ(あたし)もありすねーちゃんとたびしたいぞー」」
 じたばたと私が自己主張していると子どもたちまでが一緒になってアリスさんにお願いをし始めた。
 え? 私子ども並み??
 ……すると、アリスさんは慌てて手をバタバタさせて私たちの話に割り込んできた。
「いやいや! さすがに今回のは絶対だめだから!」
「「「え〜〜〜? なんでぇ〜〜〜?」」」
 私と子どもたちの疑問符が思い切りハモる。
 そりゃー、アリスさんほどの腕はないけどさ、でもそこそこやれると思うんだけど……。
「今回はシャレにならないから。 ゲブの奥まで行って人助けだから。 だからメンバー全員ネームレベル持ちで固めるんだって」
 ゲブ……?
「げぶってなに?」
「しらなーい」
 あ! 思い出した!
「アンデッドの国! リッチかなんかが支配するとんでもない国!!」
うわ〜〜。アンデッドはないわ〜〜。
 ネームレベルのパーティーで挑むアンデッドなんて想像するのも恐ろしい。
ウースタラヴの遺跡でひどい目にあった記憶がよみがえるよ……。
「あんでっど?」
「おばけだよおばけ! ぞんびとかごーすととかだよ!」
 私と子どもたちの「ないわ〜〜」という表情を見てアリスさんはにやっと笑った。
 ううっ、見透かされてる……自分が情けない……。
「というわけなんだよ。 折角の申し出だけど、また今度ね」
 うううっ……。
「…………きっとですよ」
「ん?」
 ええ、かならずついていきますとも。
 私はこの人と一緒に素敵な冒険をするって決めたんだから。
 まぁ、姉さんも探すけどね、アリスさんが帰ってくるまでだけど。
「ゲブから帰ってきたら、かならず一緒のパーティーに入れて下さいね」
「……俺と一緒だと無謀な旅もあるかもよ?」
「構いません。 あなたとだったらきっと討ち死にする時でも笑っていられます」
 アリスさんは少し驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んでくれた。
「……そっか。 詳しい事は帰ってきたら話そう」
「おれもー! おれもいくー!!」
「あたしもー!!」
「お前らはお母さん助けなきゃならないだろーが。 もー少し大人になってから考えな」
「「やだやだー!」」
 よーし! そうと決まったら早速姉さん探すぞー!!
 折角だから姉さんも誘ってあげたいもんね。
 それに姉さんならメイガスだし……メイガスの姉さんとローグ/レンジャーの私、前衛後衛揃うから一緒に行きやすいかもだし。
 ふっふっふ。 それがいいそれがいい!
「これからよろしくお願いしますね! アリスさん!」
「……気がはえーよ」

     ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 こうしてアリスとロッテは運命的な(?)出会いを果たした。
 この出会いに続きがあるのかどうか、まだわからない。
 アリスはこれからゲブに赴かねばならず、ロッテも姉アリアを探しに行くつもりのようだ。

 二人の運命はまだわからない……が、明るい未来が待っている事を信じたい。
 妙に善人の二人が旅をするのは少々心配ではあるのだが。




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