はじまりの物語

(文・ぺけ)

ということでメイガス化に至る経緯の一部の設定
ちょこちょこ独自の世界解釈が入ってますが、こまけぇ事はいいんだよ(´・ω・`)





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昔から好奇心は旺盛な方だったと思う。実家がマジックアイテム販売店であったというのもあったとは思うが、物心ついたころには珍しいものがひっきりなしに目に映る環境に居た。
それは、言ってみればお菓子大好きな子供に多種多様なお菓子で出来た山を置くのに似ている。
その状況に置くと、子供はお菓子好きではあるが非常に飽きっぽく新しいものに貪欲になってしまう。
手を伸ばせば次から次へと新しいお菓子が出てくるのだ、1つ1つを味わおうなどという殊勝な心がけを幼い子供がするわけも無い。
幼い頃のクーセリアも、その例に漏れず、来る日も来る日もマジックアイテムの保管庫に忍び込んでは勝手にあれこれ弄り倒し、すぐ飽きて次の物を探す生活を続けていた。
1日のほとんどを保管庫で過ごすようになるまで時間はかからず、友人関係を作る事も、外にもあまり出る事もしない少女だった。
一方両親は、自身の家系では初となる、魔術の才を持った子供が生まれたことに有頂天になり、強大なマジックアイテムは危険物保管庫に隔離してあるのだから、むしろ幼い頃から魔術に触れるのは良いだろうと黙認していた。
しかし、両親は子供の貪欲さを、もっとよく言えば初等の初等ながらも魔術が使える子供というものを軽視していた。
 ある日、危険物保管庫へと向かった両親は、その鍵が開いてる事に気づき、少女は突然居なくなった…



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クーセリアが、シーライ=シサンの行方不明の報告を聞いてから数週間が過ぎた。
その間にソサエティへとレスキューミッションを依頼したが、依頼の難易度からか、人が集まる気配を見せなかった。かつての仲間に依頼をしようとしたが、既にアブロサムを離れている人も多く、会いに行っている時間も余裕も無い。仮にあったとしても、それなりの役職についた皆を動かすにはそれに見合う理由が必要だ。
今回のような“よくある事”では足りない。それをクーセリア自身は良く知っていた。
伊達にSEIKYOで1番失踪届を提出された女の称号を持ってはいない。
その中でもアリスは、特に理由を追及することなく快諾してくれた。今回の件で言えば個人的な我侭でしかないが、それでも付いて来てくれるといってくれたアリスには感謝している。
とはいえ2人だ。確率からすれば非常に厳しい事には変わりは無い。まして今や失敗は自分だけではなくアリスの命も乗せている以上、勝算も無い中で行くわけには行かない。

クーセリアは自分が何をできるか、何をできないかを思考する。
人には得手不得手があり、それぞれの不得手の部分を補い大きな力を出せるのがパーティというものだ。
現に彼女は"その論理"で戦ってきた結果"砂漠の隼"という名声を得ている。
だが、あくまでそれは、自分の不得手を補ってくれる仲間がいるというのが前提にあって
初めて成立するものだという事であり、それが崩れてしまえば単なる弱点のある1人の人間でしかないのだ。
そして自分は少人数ではなく多人数の中で戦うことに特化した魔術師。
前の旅で正面から敵と相対した回数とその事態に陥ったとき自分がどうなっていたか、それを考えれば自分にとって何が足りないか。それは明確だった。

たとえ1人であっても生き残れる防衛力と攻撃力

他にも色々足りない所があるにせよ、それだけは少人数で動く上で必ず必要な要素だ。
そして、それは自身にとって、まっとうな方法で得られる要素ではない。
「手段を選んでいる場合じゃないっすね。出た所勝負っすけどいつもの事っす。」
ため息をついてクーセリアは自室を後にした。



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「…おなかすいた…」
力なく呟くが、それに答える人は居ない。あるのは鬱蒼と生い茂る木だけだ。
保管庫でマジックアイテムを起動させた次の瞬間にこの森に飛ばされ、しばらくたった。
しばらくと言ったのは光も入らない森の為どのくらい経ったかを確認する術が無いからだ。
その間何とか歩いて出ようと思ったが森の中は深く無闇に体力を消耗するだけだったが、得体の知れない不安と恐怖感から逃れる為に必死に歩き続けるしか無かった。
おぼろげな足取りで進んでいると、木の出っ張りに足を取られ倒れこんだ。すぐに起きようと力を入れようとするが、体は起きてくれなかった。
「このままここでしんじゃうのかなぁ…」
そう思うと涙が出てきた。色々な物に囲まれてそれだけで幸せだと思っていたが、それは間違いだった。1人はこんなにも寂しく暗く哀しかった。
「…た、たすけて、だれかたすけてよ!!さびしいよ!こわいよ!こんなの、こんなのいやだよ!!」
誰に向けたわけではない、ただ不安から逃れたかったその一心で力いっぱい叫んだ。
当然その叫びは届くことなく虚空へと消えていくものかと思われた。しかし
「助けますよ、但し1つだけ約束をしてくれれば、ですけど」
ありえないはずの返答が耳に入ったとき、いつの間にか目の前に人影があった。
「初めまして少女、私はシーライ=シサン、魔術師です。」



-3-
「昔を思い出すっすねぇ、というかやっていることは変わらないっすけど」
調度品が少なく、不思議なオブジェと鑑定道具が無造作に置かれている部屋は、魔術師らしくはあるが女性らしさとは程遠いシーライの部屋の中でクーセリアは笑う。
侵入自体は特に問題ではなかった。自分の師が不在かつ、自身も駆け出しではなく、それなりの実力を認められているクーセリアがシーライの部屋へと入るのに必要な理由など特に労する事も無く作ることができた。

似たもの同士故か、特に探知魔法を使う事無く目的の品を見つける。巧妙に隠されたそれは古びた鍵だった。
SEIKYOが物流と鑑定を扱う部署である以上、強大すぎて手に負えないマジックアイテムは一定数持ち込まれる、そういうものを、この鍵で入れる隠し部屋にて厳重に保管するのだ。
クーセリア自身も何があるかを把握しているわけではないが、強大なマジックアイテムなら現状を打破できるものがあるかもしれない。そこに賭けたのだ。
「…師匠、約束破ります。ごめんなさい」
鍵を握り締め、誰にとも無く呟き、部屋を後にした。



-4-
簡単に言えば興味があった。
丁度立ち寄った町で、失踪したクーセリアの捜索の依頼を受けた動機を、シーライはそう話した。
興味の内容は2つある。
1つ目は、今回発端となったマジックアイテムは、たかだか少女が起動できるものではなく、少女の才がどの程度の物なのかという点
2つ目は、今どき珍しいマジックアイテムの危険性を理解せず、子供に四六時中触らせていたという、稀有な状況が子供に、どのような影響を与えたのかという点
つまり、今となっては珍しい、魔術を学ばせるでもなく、遠ざけるでもなく、単にひたすら純粋培養で触れさせた育った子供というものがどうなっているのか気になった。

だが、痕跡を見つけ、たどり着いた先に居たのは、泣きながら死にたくないと叫ぶ至って普通の子供だった。まぁ、当然と言えば当然だが少しがっかりする所もあった。
「やくそく?」
シーライは、その言葉にうなずくと、少女の近くでしゃがんで目を合わせる、基本ここまで痛い目を見れば魔術から遠ざかるのは普通だし、それを言い聞かせるのも魔術師の仕事だ。とこの類の事件の決まり文句を言った。
「えぇ、約束です。まずコレに懲りたらマジックアイテムとか魔術とか勝手に触らないよ…」
「やだ!!」
しかし、シーライの言葉を遮るように少女は強く答えた。
「何故?これだけひどい目にあったでしょ?近寄らなければこんな思いする事もないのよ。あんまり我がまま言うと置いていくわよ。」
少し脅す様に語気を強める。
この事象は魔術によって引き起こされたものだ、そのくらい少女にもわかるだろう。しかし、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらそれでも視線だけはまっすぐ強い意志で見つめてもう一度
「それだけはやだ!ぜったいやだ!」
と目の前の少女は、はっきりと答えた。
魔術師は真理を解明する為に多かれ少なかれ危険に身を投じる、簡単に言えば少しネジの外れた人種だ。魔術の才だけでは魔術師になれない、魔術に身を捧げる覚悟があって初めて魔術師と呼べる。事実学校でもそのような教えがなされているが、実際駆け出しの頃に痛い目を見て尚魔術師を続けるものは極々少数だ。そのくらいには自然に会得するのは難しいものだと、シーライは思っている。
だから、シーライにとって、この初等の魔術すら覚えてもない至って普通の少女の中身は、どうしようもなく魔術師だった。
「これも縁か…」
2秒ほど思考し、シーライは覚悟を決めた。
「分かりました、では別の約束にしましょう。但し代わりの約束は2つです。
1つは、これから私の元に来る事。あなたのような危なっかしい子は私が1から叩き直してあげましょう。
そしてもう1つ、私の許可なしで危ない事はしない事。やる場合は必ず私に許可を求めなさい。」
クーセリアは一転して笑顔でうなずいた。その様子を満足げに見て
「では、これより、あなたは私の弟子です。回復したらすぐに支度していきますよ。」
シーライはクーセリアを担ぎ上げて転移の準備に入る。
2人の長い付き合いとなる始まりの出来事、始まりの約束。




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