ディバイン・バスター拝領

(文・ぷらなりあ)

あのアリスさんがテンペストを手放して新しい武器に乗り換えるとか大事件!
なので、どういう経緯で乗り換えたのかをSS形式で晒す事にしました。

……ああ、どうせ設定マニアだともww

モノは「ミスラルグレートソード+1アンデッドベイン」と「ミスラルフルプレート+1か2」、そして「グラブスオブデュエリング」です。
他の物はあまり以前のアリスの物と変わらないようにしているつもり。
まぁ、最後の分配しだいで細かい部分を変えるつもりですけどね。

ともあれ「次の旅立ちまでこんな事をしていたのだよ」という物語によろしければお付き合い下さい(^^ゞ
あ、PCではジェリコが結構登場しますが、「こんな事は言わん!」とかそういう文句があったらぜひ教えて下さいね。>トパさん
アリスが結構善人に書かれていますが、これは実プレイ中に結構子供たちなどを気にかけていたあたりで「こんな事もアリか」くらいに思っていただけたら幸いかなw




 ショゴスの脅威からアブサロムを守る戦いは『砂漠の隼』の勝利に終わった。
 巨人や竜の跳梁する時の迷宮……そして迷宮を抜け休む間もなく激突する事になった、人類への復讐を目論むミ=ゴたちを率いる魔術師クーブリウムとの戦闘は苛烈を極めたが、数々の危機を乗り越えてきた『砂漠の隼』の剣と魔法は鋭く、ことごとく敵を薙ぎ払い、ついにショゴス封印の儀式を守り抜く事に成功した。
 ……かくて彼らはケルマレインに続いてアブサロムをも救い、人類世界その名を轟かす事になったのだった。
 ここにひとつの物語が終わり、また新しい戦いの幕が上がる。

     ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

「なぁ、ジェリコ。 少しいいか?」
 戦いが終わって数日後……。
 アンドーランに戻る為、宿の居室で荷物をまとめていたジェリコの元に客人が現れた。
 ジェリコと肩を並べて大剣を振り回し、多くの敵を斬り伏せてきた少女剣士、アリスである。
「おや、アリスか。 君から訪ねてくるなんて本当に珍しいね」
 本人が多くを語らないので理由はよくわからないが、アリスが自分から男性に近寄るようなことは(斬る目的以外では、だが)滅多にない。
 パーティーのメンバーには少し笑顔を見せる事もあるが、基本的にはパーティーでアリスの他に唯一の女性である魔術師のクーセリアにくっついて離れないのが常である。
 きっと大切な話に違いないと直感したジェリコは、片付けの手を休めてアリスに向き直った。
「立ち話もなんだ。 そこにかけたまえ」
 部屋に置かれた椅子の状態の良い方を勧めながら、ジェリコはアリスから少し離れた位置でもうひとつの椅子に腰かけた。
 ジェリコが腰を掛けたのを見計らうとアリスは彼の部屋に入り、少し椅子を引いて浅く腰を掛けた。
 ジェリコの座る位置を確認し、さらにわざわざ椅子を少し離して座るあたり、やはりアリスはアリスの様だった。

「ん……。 俺には細かい事までは理解出来ないんだが……」
 ジェリコが出してくれたエールの水割りで喉を湿すと、まずアリスはテーブルの上にどっかりと自分の剣、テンペストを置いた。
「……あの寺院で色々調べていたよな? だから教えてほしいんだが、テンペストは元々ヴァルディシャールの持ち物で、サーレンレイの信徒たちにとって大切な物なんじゃなかろうか」
 なるほど、と思ったジェリコは顎を撫でながら頷いた。
「それはそうだろう」
「だよな。 ……まぁ、今回は使わせてもらったが、ケルマレインを悪から取り返した今、俺が持っていていいのかなあ?」
 律儀に眉を寄せて考え込むアリスにジェリコは思わず苦笑した。
 騎士だって今時こんな真面目な事は言うまい。
「いや。ヴァルディシャールはそんな小さい事の為だけにテンペストを与えたわけではあるまい。 彼は悪と戦うアリスにそれを託したんだ。 むしろ軽々に手放す方がヴァルディシャールの意に反すると思うよ」
 そう言われるとようやくアリスも「なるほど」という表情を見せた。
 だが彼女にはもう一つ気になる事があったのだ。
「だけどもう一つ気になる事がある。 ……この間の最後の戦いの時、クーブリウムの奴はテンペストを「奪って利用する」と言っていたよな。 もしかしたらだけど、テンペストには俺にはわからない別の力があるんじゃないか? 知っての通り俺はもうじきクーを護衛してゲブに向かうつもりだ。 もちろんそう簡単にやられる気はないが……もしこの剣が妙な奴の手に渡って悪用されるような事があったら、死んでも死にきれんと思ったんだ」
 クーブリウムはテンペストを手にしたアリスを目にすると確かにそう言った。
 死ぬ直前の捨て台詞というわけでもないので嘘とも思えず、彼女はそれがずっと気にかかっていたのだった。


「確かにそんな事を言っていたな……」
 腕組みして長考に入るジェリコだったが……判断する材料があまりにも少ない事に気が付いた。
「発見された時の事を思い出しても、武器以外の使い道は想像もつかない」
 だが、と彼は言葉を継いだ。
「物がアーティファクトだけに、とんでもない機能があったとしても不思議ではない。 使用者の能力に合わせて解放される能力……来訪者に対する強力な抑止力……今わかっている能力だけでもかなりのものだしね」
「なるほど……なら俺はどうしたらいいかな? いや、この間貰った報酬もあるし、いざとなったら預かって貰って新しいのに買い替えても仕方ないとも思ってるんだが」
 困り切った表情のアリスに、ジェリコはひとつの道を示してみることにした。
「自分にはしかとした事はわからないが、アブサロムのサーレンレイ大神殿でならば何かわかるかもしれない。 わからずとも、なにがしかの調べる手段も持っているだろう。 私の所属とは違うが、なに、アイオーメディ神殿に仲介してもらえば十分に便宜を図って貰えるだろう」
「うん、鎧は鎧屋という事か。 そうしてくれるとありがたい」
 アリスの同意を取り付けると、早速ジェリコは羊皮紙を取り出しさらさらと書状をしたためはじめた。
 律儀な彼らしく、アリスにいくつか内容を確認しながら、これまでの経緯と疑問点をまとめているようだった。
「その手紙を持っていけばいいのか?」
 アリスがたずねるとジェリコは肩をすくめて首を横に振った。
「いやいや。 私自身が説明とお願いに出向くつもりだよ? ただどこの組織も書類というものが必要なのでね。 報告書などはあらかじめ作っておいた方が話が早いのさ」
 軽く安堵したような表情のアリスに、ジェリコは思わず苦笑を浮かべた。
「堅苦しい上にむくつけき神官戦士が大勢いる場所はやはり苦手のようだね。 ……でもそうやって安心してくれるという事は、私には少し慣れてくれたのかな?」
 その言葉に、アリスは慌てて手をバタバタさせた。
「いや、その、不快な思いをさせてたよな。 正直すまんかった! ジェリコは別に何もしないってわかってるんだが、どうしても鎧武者の男の姿はな、苦手で……」
「別に責めてるわけではないんだ。 ……そうだよな、ずっとあのアルベルト卿に狙われていたんだったな。 騎士姿の男性に恐怖心を持つようになっても仕方ない事だ」
 一連のストーカー騎士襲来を思い出し、しかつめらしく頷くジェリコだったが……アリスは少々納得していないのか小首をかしげている。
 しかしジェリコはそんなアリスの様子に気付くことなく言葉を継いだ。
「というより、子どもの頃から傭兵たちの中にあってしっかり貞操を守り通したことこそ褒められるべきだものね」
「貞操……」
 頭の上にクエスチョンマークを浮かべてしばし何事かを考える様子のアリスだったが、ようやく理解が追いつくと苦しそうにお腹を抱えて笑い出した。
「うん? 何か笑う事があっただろうか?」
 戸惑い顔のジェリコに対して、まだ笑い続けているアリスは何度も頷き返した。
「アルベルト卿の事は、故郷をフケる原因にはなったけど、別に男嫌いの素ってわけじゃないんだぜ? ……なんていうか、やっぱあんたは聖騎士さまだな。 きっと根っこのところで人間を信じてるんだろーね」
 そして少し残っていたエールを飲み干して喉を潤すと、少し自嘲気味に話を続けた。
「いつだったか、俺が『娼婦にならないために兵隊になった』って言ったから文字通りに受け止めてたんだな、きっと。 確かに言った通りなんだが少し話が足りてねー。 細かく言えば、あのままずるずる本物の娼婦にされるのが嫌だったから兵隊になったんだ」
 過去の事がフラッシュバックしているのか……アリスはどこか遠くを見るような目でジェリコを見つめた。
「なあ。 子どもの頃から傭兵隊と一緒にいて、ある程度の腕っぷしになるまで無事でいられると、思ってたのかい?」
 ジェリコとて世間を知らないわけではない。
 育ちのいい神官戦士たちとだけ肩を並べてきたわけでもない。
 神官戦士たちの中にさえ、戦場の興奮に酔って不埒を行っている者がいる事も知っている。
 ……アリスがいたのはもっとずっと荒んだ環境だったのだ。
「……そう、だよな。 無神経な事を言って済まなかった」


 頭を下げるジェリコにアリスは明るく「気にしてない」と答えた。
 その眼の中に、以前見た事のある光が宿っている事に彼は気が付いた。
 あれは……そう。戦場で幾度も出会った、痩せこけた子供たちやみすぼらしい娼婦たちの目にあった光……怯え、達観、そして諦めの色だった。
 今更ながら、ジェリコはアリスがまだ10代の少女だったことを思い出していた。

     ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 数日後。
 アリスの姿をサーレンレイ大神殿の前に見ることが出来る。
 ジェリコの仲介を得、アイオーメデイ神殿経由で相談を持ちかけたところ、神官長直々に詳しい話を聞いてもらえる事になったのだ。

 招聘を受けて神殿を訪れたアリスは、大して待たされることなく奥の執務室に通された。
 執務室で待っていたのは温厚そうな中年男性が一人、そして白鋼の甲冑に身を包んだ女性騎士が一人だけである。
「まずは椅子に掛けて、楽にしなさい。 ……本当は護衛など不要だと言ったのですがの、無粋な者が同席しているが気にしないで下され」
 豪華な布張りの椅子を勧めながら、中年男性は自分が神官長であると名乗った。
 無粋扱いされた女性騎士は憮然とした表情を浮かべて天を仰いだ。
「神官長……確かに『砂漠の隼』の冒険者たちはこの街を救いましたし、十分信用に値すると某も考えています。 ですがそれとこれとは別です。 神官長はアブサロムの全てのサーレンレイ信徒にとって大切な方だという自覚をお持ちください」
 さらに、その若い女性騎士(と言ってもクーと同じか少し年上くらいのようだが)は、アリスの方に向き直って言った。
「貴殿の勇名はかねがね伺っています。 アブサロム神殿騎士団の第三中隊長を務めるマイヤ・ヘイゼルと申します、お見知りおきを」
 そしてアリスが立ち上がって黙礼すると、一歩歩み寄って右手を差し出した。
「アイオーメデイの聖騎士、ジェリコ殿もずいぶんと貴殿を買っておられた。 役儀により同席させていただくが、お許しいただきたい」
「アリス・リーデルです。 こちらこそよろしく」
 短く答えると、アリスは差し出された右手に、無造作に自らの右手を重ねる。
 ……その瞬間、鍛えこまれたマイヤの握力がギシリとアリスの手を締め付けた。
「やはり相当使われるようで」
 万力の様な握手に涼しい顔で応じるアリスに、マイヤはニヤリと笑いかける。
「貴女こそ、神殿の置物にしておくのは勿体ない戦士のようだ」
 お互いの力を理解しあった二人は、今度こそ親しげに肩を叩きあって笑みを交わした。
 神官長は何も言わず、ただニコニコとその光景を見つめていた。

「ふうむ。 これがその『テンペスト』ですか……」
 茶を交えたしばしの談笑の後、神官長はアリスの剣を受け取り、まじまじと見入っていた。
「アイオーメデイ神殿より報告書を受け取ってから早速記録を探させたのですが……あいにくしかとした記録は見つかりませんでした」
 ちょっと起動してみてください、と剣を渡されたアリスはいつものように念を込める。
「『テンペスト』」
 アリスの呼び声に応じてテンペストは青白い燐光を纏いはじめた。
 冷気にあてられ、執務室の温度も心なしか下がった様な印象を受ける。
「……なるほど。 マイヤ隊長、方法を伺って同じようにしてみてください」
「何も難しい事はないですよ」
 アリスにコマンドなどを聞いたマイヤも、同じようにテンペストを構えた。
「『テンペスト』」
 ……しかし何も起きない。
 さっきまで纏っていた冷気のかけらは残っているが、燐光も魔力波動も一切ない。
「腕はそう変わらないと思うのですが」
 憮然とするマイヤに、神官長は笑って手を振って言った。
「そういうことではないのだろう。 ……何が主体かはわからないが、アリス殿を主と認める機構があって、自らの力をコントロールしておるのだ。 並のアイテムにはかなわない事ですな」
 そしてアリスにやわらかい視線を向け、頷いた。
「これはサーレンレイ神殿に関わる貴重なアーティファクトなのかも知れませんが、確たる記録がない上、主はアリス殿と定まっており神殿としてそれを尊重したいと思います。 ですから気にせず今迄通りその剣を役立てていただけたらよろしいのでは?」
 神殿のお墨付きはありがたいし一つの荷は肩から降りたのだが、アリスにはやはりどうしても看過出来ない気がかりがあった。
 もちろん、クーブリウムの言葉の事である。


「しかし……報告書でも触れてるはずだけど、少なくともクーブリウムっていう魔術師はテンペストの別の活用法を知っていたようだし、それが悪用でないとは到底俺には思えないんです。  もしかしたら知ってるかもしれませんが、俺はこれからゲブに向かって帰らないソサエティの人たちを救出しに行くつもりです。 もしもゲブでテンペストを失ったり、俺が命を落としたりしたら……そしてこの剣が何かの凶事を招いたりしたら、俺はヴァルディシャールに顔向け出来ません」
「なるほどのう」
 感心したように何度も頷く神官長に、アリスは鞘に納めたテンペストを差し出した。
「だから、ゲブに行っている間これは置いていくしかないかなと。 どのくらいの期間になるかはわからないけど、その間神殿で調べて貰って、危険でないのならもう一度使わせてもらおうかなと思うんです」
 それを聞いて驚いた、というより慌てたのはマイヤである。
「ちょ、これからゲブに行こうというのに剣を手放してどうされるのです?」
 もちろんテンペストはアリスのメインウェポンで、命の次に大切な物のはずなのだ。
 マイヤの驚愕は騎士として当然と言えよう。
 しかし、アリスはその懸念を軽く笑い飛ばした。
「なに、アブサロムから過分な報酬を貰いましたからね。 新しい剣を買えば済む話ですよ」
 これを聞いた神官長は一つ大きく頷くと、手を叩いて控えていた従者を呼び入れた。
「例の物を持ってきなさい」
 従者たちが執務室に運び込んだものは、細身のミスラル製グレートソード一振りと、同じく白銀のフルプレート一領だった。
「それではこれをお持ちなさい。 ゲブに向かうならばこれらの武具はきっと役に立つでしょう」
「……これは?」
 アリスが疑問符だらけの顔で質問すると、それにはマイヤが答えた。
「この三つの武具は、かつてオシーリオン南部の小さな町がヴァンパイアによって壊滅させられた折、その吸血鬼としもべたちを討ち滅ぼすために戦われた騎士が使っておられた対アンデッド用グレートソード『ディバイン・バスター』と、サーレンレイの祝福を授けられた神官騎士に授けられる具足『セイクリッド・クロス』。 そして、かの姫騎士が剣戟に更なる力を与えるために愛用したと伝えられる『決闘の手袋』と呼ばれるグラブです。」
 どれも、一目で見て最高級の武具であり、おそらくは一級品のマジックアイテムでもあることが見て取れる。
 商人から手に入れたなら贖うためにどれだけの出費が必要か……想像しただけでアリスは眩暈を起こしそうになる気がした。
「こんな素晴らしい品々を、無事に戻れるかもわからないのに借りるわけには……それに俺は神官騎士なんて柄ではないです。 一応母親だけは知ってるけどただの孤児で、女郎崩れの傭兵に過ぎません」
 もごもごとビビるアリスに神官長はゆっくりと首を振った。
「いえ、これは貴女に差し上げようと思います」
 息を飲むアリスに、神官長は何か報告書らしき羊皮紙の束を繰りながら語りかけた。
「アリス殿は先日、戦死した船員の孤児たちに多額の布施を持たせ、当神殿を含めたいくつかの神殿に預けていましたね。 ……またこれは部下の報告にあった事ですが、貴女は裏街で病や怪我に苦しむ娼婦たちに薬や食料を分け与えていたとか」
 マイヤも頷いてそれを肯定した。
「貴殿がどのような人物か、アイオーメデイ神殿の仲介を受けてから某の部下たちに調べさせたんです。 ……皆貴殿の献身を褒めていましたよ」
 いや、あれは……と何かを言おうとするアリスを制し、神官長は静かに頷いた。
「確かに貴女は貴女自身の言う通り、法の体現者ではないかもしれない。 しかし私は貴女の打算のない、純粋な善性に疑う余地はないと思っています。 ……どうか遠慮なく受け取って貰いたい。 そして伝説の姫騎士のように、迷える者たちを救ってあげて欲しいのです。 貴女と、貴女が振るうディバイン・バスターにならそれが出来るのだから」


 こうしてアリスはテンペストと引き換えに新しい力……『ディバイン・バスター』と『決闘の手袋』を手に入れた。
 またより頼もしい鎧、『セイクリッド・クロス』に身を包むことになった。
 伝説の姫騎士は仲間たちと共に恐ろしいヴァンパイアの群れと戦い、ヴァンパイアの首魁こそ取り逃がしたらしいが、その部下・しもべの悉くを討ち取り、オシーリオンの人々の脅威を取り去ったという。
 新たな剣を手に、アリスはヴァルディシャールや姫騎士に恥じぬよう、そしてクーセリアを再び守り抜けるよう、自らへの誓いを新たにするのだった。




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