カタペシュの街を歩きながら、出口のない思考の迷路に陥っていた。
船の上で自分たちを襲った暗殺者達は、自分と同じくらいの女性達だった。
確かに襲われた事実は許せなかったが、でも、動けなくなった相手に向かって止めを刺すほどではなかったと思う。
虫のいい話だ、アリス達がいなければ、少なくともあの暗殺者達に殺されていた、アリスが止めを刺してなければ何か予測できない脅威になったかもしれない。
理屈ではわかっているが気持ちは追いつかない、どうしても割り切れない。
気が付くと目の前に光るペンダントがあった、無意識にそれを拾い上げる。光にさらすと緑色にきらきらと光っていた。
周囲に落とし主が居ないか見渡すと、すぐに一人の明るそうな青年が気づいて寄ってきてくれた。聞くと母の形見らしい。彼の母も喜んでいて、仲睦まじい光景に、自然と頬がゆるむ。
親子はお礼をしたいということで家に招いてくれた。正直、そこまでしてもらうことでもないような気がしたが、うだるような暑さに知らず知らずに参っていたのかもしれない。
日差しが無いややひんやりとした部屋に招かれると、彼の母がチャーイという甘い香りのする飲み物を持ってきてくれた、
久しく甘いものなど飲食していなかったため、行儀が悪いとは思いつつもすぐに口に運ぶ、甘い味に沈んだ心が安らいでいく
「なんか、最近いろいろあったので、こういう甘い飲み物は落ち着くっすねぇ」
としみじみと話していると、思考が混濁してくるのを感じる、どこか夢の中にいるような…
そうしているうちに、いつの間にか目の前にさっきの彼がいた。先ほどとは違い下卑た笑みを浮かべて押し倒されるのを感じる。
奴隷市場や味見などの言葉が彼から聞こえ、服がはだけられていくのをどこか夢の出来事のように感じていた。
あぁ、これは罰なんだ…アリスの気持ちを考えず、自分の身勝手で非難をした私の…
胸を這う手をどこか遠いところの出来事のように感じているのに、うつろな瞳から涙が溢れてきた。
「ごめん…なさい、ア…アリ…ス…ごめん…なさい…
無意識にそんな言葉ばかりを繰り返しながら、意識が暗闇に落ちていった。
次に気が付くと、アリスとラエウが心配そうに見ていた。安堵と恐怖が混ざったような感情が押し寄せ、また涙が溢れてくる。私が泣きつくと、アリスは少し照れくさそうに、あやしてくれた。
「ごめんね、ありがと」
と泣きながら一番言いたかった言葉を口にする、アリスは心なしいつもより優しく笑ってくれた。
あの判断が正しいかは、私にはまだ分からない。でも、何があろうとアリスを信じようと心に誓う。そして、私は私の意見を言おう、喧嘩をするならしよう、結果分かり合えなくても、アリスが大切な友達であることには変わりないのだから。