クーデリア・序章
(文:ぺけ)


 

「決めたわ!旅に出ましょう!!」 
アブロサムにある、魔術師学院で鑑定の研究をしていたクーデリアは突然立ち上がってそう叫んだ。周りで同じように鑑定をしていた同僚は、またかという表情からして説得を諦めているが、彼女の師である「シーライ=シサン」はため息をついて 
「クー、またですか」 
と代表して彼女に尋ねたが、彼女は柔らかな静止程度は意にも返さず、様々な器具が置いてある棚をびしっと指差し 
「シライシ師匠!何かお告げ的なものが来たので出かけます、あっちへ!!」 
と、師匠の顔も見ず高々と宣言した、勿論どや顔だ。 
「私はシーライ=シサンです、まったく師匠の名前を変なところで略さないで下さいよ」 
「とめないで下さい!シライシ師匠!未知の土地と未知の生物!未知の体験が私を呼んでいるんです!」 
シーライは、もう一度深くため息をついた。この思い込みの激しい放浪癖のある弟子は、成績優秀で、駆け出しながらも一人前として立派にやっていける程度の能力はあるのだが、なんといっても授業の欠席が多い。 
その理由も珍しい生物や植物を発見した、という一応研究者として面目の立つ理由から、風が‥呼んでいるっ!!といきなり出て行くという最早理解不能なものまで様々だ。その結果色々な教授から追い出され、巡り巡ってシーライの所へと押し付けられた。 
突っぱねる事も出来たが、シーライは彼女を引き受けた、シーライ自身はほとんど研究室に篭り生活していた為、彼女に何かあこがれのようなものを感じたのが理由の半分、残りの半分は彼女がシーライの研究室に所属して1ヶ月くらいだろうか、研究員の一人が少々遠方に出かけた際、大切なペンダントを無くしたとの話を聞いた次の日、彼女は居なくなっており、それから2ヶ月ほど経った後、彼女はペンダントを持って帰ってきた。曰くついでに見つけたからとの話だったが、そんな他人を思いやれる優しい子を放り出す気にはなれなかったのだ。 
とはいえ、いつまでも適当に放浪されても困る、彼女には学術より実地で学ばせるべきだろうとは前々から思っていた、今日その日が来たと思えばいいだろう、そう思わないと流石に胃の痛みでおかしくなりそうだ。 
「待ちなさい、クー」 
と、人が回想に浸っている間にちゃっかり旅支度を整えている、困った弟子に向かい1枚の紙を手渡す。 
「これは‥ねんがんの実務研修書じゃないですか!」 
彼女が驚きの声を上げるのも無理は無い、実務研修書とは、文字通り広く在野に出て、魔術を実践的に運用し、成長を試験によって確認することによって成果とする趣旨のものだが、基本的に外に出ても生徒の管理責任は教授にあるため、ほとんどの教授が万が一に自分の責任になることを恐れ発行は非常に稀なのだ。 
「どうせ、あなたに座学をしなさいといっても無理でしょうし」 
とは何度目かのため息をつこうとして、驚愕の表情を浮かべた 
シーライの目の前で、彼女が、頭を深く下げていた。彼女を弟子として取って初めてのことだった。口をパクパクさせているシーライに彼女は頭を上げ真剣な表情で 
「ありがとうございます、必ず、必ず!この恩は返します!!シライシ師匠!」 
相変わらず名前は変な略され方だが、それでも朗々と彼女は言った。 
シーライは優しく微笑み 
「そうですか、1日でも早くその日が来ることを祈っていますよ。」 
とだけ言って彼女を送り出した。 

消えていく彼女の姿を見送りながら、彼女なら大丈夫だろうという確信めいた思いが沸いていた。彼女が必ずといった以上、必ず戻ってくる。その時にどうなっているかを想像して少し微笑みながらシーライは鑑定室へ戻っていった。





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