- 「僕…いえ、私、皆さんに隠していた事があるんです。」
宿の一室に、いつのも仲間達を集め、ついにアレクセイは告白した。 自分が女性であることを。
はじめは、旅先での生き残りの為に男装を通していたのだが、一度それで馴染んでしまうと、今更言いづらい気持ちと、以前「女性だから」と断られてきた軍属のイメージがあり、なかなか言い出せずにいたのだ。 正体を明かした途端、仲間から外されてしまったらどうしようか、と。
だが、城塞の戦いの後、バーンの誠意ある問いかけに対し、ついに自らの正体を明かした。 皆に対しても、そろそろ限界だろう。
彼女の告白が終わり、部屋が沈黙に包まれる。 同席しているバーンも、様子を見ているのか無言だ。
「(せめて、何か言ってほしいな…)」 おずおずと顔を上げてみると、皆困った表情をしている。 いや、ユーヌは笑いをかみ殺しているようにも見える。
「えーっと…なんて言いましょうねぇ?」 最初に沈黙を破ったのは、ゼルギウスだった。 苦笑をうかべ、まるで困っているような顔でウィンシーに顔を向ける。
「うん、今更だわよね~。」 話をふられたウィンシーも、どう答えたらいいか、困り顔だ。
「今更?」 「とっくにばれてるから『今更』さ。 だから、前に『ばれてるヨ』って教えてやったじゃないか。」 アレクセイの疑問に、ユーヌが答える。
「それは、ユーヌがそういった方面の専門家だから…。ウィンシーさんも気づいているかな、とは思いましたが…。」 「バレバレでしたよ。 まぁ、バーンはなかなか気づかなかったみたいでしたが。」と、ゼル。 「いや、俺だってなんとなくそうじゃないかとは思ってたさ。 確証が持てなかっただけだ。」 「僕も不思議だとは思ってたけど、まぁ、いいかと思って。」 アルベルトはベッドに寝転びながら、枕元に積んだフルーツをつまんでいる。
どうやら、恐れていた事態にはならずに済みそうだと、ようやくアレクセイの顔に安堵の色が浮かぶ。 自分ではよくできていると思っていた変装が、まるきりそうではなかったのが残念でもあり、恥ずかしくもあるが。
「それにしても、なにか事情があって、変装の真似事をしてるんだとは思ってたけど、そんな理由だったとはねー。」 ベッドに腰掛けながらウィンシーがため息をつく。 「グラムからも何か言ってあげなさいよ。」
部屋の中央で、じっと腕組みをして考え込んでいたドワーフが、ようやく顔を上げる。 「いや、わしは気づかなかった。」
一瞬の沈黙の後、「えぇぇえええ?!」という、驚きの大合唱が起こる。
アレクセイとしては、自分の告白の後にこの反応が来るものだと思っていたのだが。
「おま…っ、いくらなんでも、それは鈍感すぎだろう?」 嘘だよな?といわんばかりにユーヌが声をかける。 「うるさいぞ、グレイエルフ。分からんかったものは、分からんかったんだ。男の格好をして、胸だって無いのに、気づくわけ無かろう!」
グラム以外の全員が、アレクセイの心の深いところに、何か目に見えない鋭いものが、深々と突き刺さった音を聞いた気がした。 とっさにバーンがフォローを入れる。 「いや、アイエールは、ちゃんと胸だってあるぞ!鎧とか服で隠してるだけだ。」
「アイエール?」 アルベルトが首をかしげる。 「アレクセイの本名なのでしょう。」 ゼルが頷く。 「てことは、見たんだ。」 「もう、見たのか…。」 ウィンシーとユーヌに茶化されて、今度はバーンが自分のフォローをする羽目になる。
「ち、ちがう!風呂場で見ていただけだ!」 必死で説明するが、元々バーンは話をするのが得意ではない。 新たな敵を作ってしまった事に気づいていない。
「見ていた?どこを?!」 レガシィウェポン、メルトゥーヴィアルの鞘なりが背後から聞こえる。 振り返った先には、顔を真っ赤にして剣に手をかける女神官の姿。
「そういえば、前にアレクセイの脚が女みたいとか言ってたよな。」 火に油を注ぐのが好きなグレイエルフが、話をあおる。
「こうなると、目端が利くのも、考え物だね。」 アルベルトが2つ目のフルーツを手にとって階下の酒場へとむかい、他のメンバーも「遊びのネタが減った」等と言いつつ、それに続く。
「で、どうやって決着をつけるんだろ?」 最初に部屋を出たアルベルトが、階段を下りながら仲間達を振り返る。
「アレクセイは引っ込みがつかなくなってるだけだからネ。」 「そうそう、照れ隠しですからねぇ。」 頭の後ろで手を組み、座るテーブル物色しながらユーヌが答え、ゼルギウスが相槌をうつ。
「じゃ、どうすればいいわけ?」 「かぁーんたんよ。 バーンが素直に謝れば、アレクセイちゃんも怒っていられないわよ。 それどころか、照れ隠しに、『ほっぺにチュー』くらいしてもらえるかもよぉん。」 人差し指をたてて、ウィンシーがウィンクしてみせた。
全員がテーブルについた頃、アレクセイに続いてバーンが降りてくると、早速ユーヌが茶化しに入る。
「バーン、頬に口紅ついてるヨ。」
「バカ言え。 大体、アイエールは口紅なんて…」
冷静に答えるバーンだったが、隣のアレクセイが、今日は口紅なんてしてたかな?と、口元を触って確認している。
「あ…」
そして、彼女が気づいた頃にはもう遅い。
思わず伏せた視界の端に、仲間たちから良いように弄り回されるバーンの姿が見える。
その姿にしきりに頭をさげつつも、改めて居場所を与えてくれた仲間達に感謝せずにはいられなかった。
こうして、仲間に全てを明かした彼女は、アレクセイという名は名乗りつつも、男装をやめた。
パーティ結成以来、ささやかな悩みとしてくすぶっていた問題もようやく片付き、新たな気持ちで、冒険の旅へと足を踏み出して行くことになる。
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