救えなかった命
(文・イラスト:そめいF)


アレクセイが同じ境遇の仲間達と修行をしていた頃、衛兵の中に、何かと面倒を見てくれる男がいた。
ゴブリンの襲撃で子供を亡くしていた彼は、彼女達のような孤児を我が子のように可愛がり、時に遠い国の話を聞かせてくれたり、こっそりとお菓子を差し入れてくれることもあった。
父というものを知らない子供達にとって、それはとても暖かく、楽しい時間だった。

ある日、町の近くの洞窟にオークが住み着き、周辺を脅かし始めた。
これを憂慮した町は、衛兵による討伐を決定するが、神出鬼没なオーク達に対して、町の守りも固めねばならない。
結局、衛兵隊の中から選抜された6名の精鋭が洞窟に向かうこととなった。
これには修行を終えたばかりのアイエール(後のアレクセイ)も志願するものの、実戦経験の無さを理由に却下される。

翌朝、討伐隊が帰還した。
僧侶を含まない彼等はオーク達に勝利したものの、2名が帰らぬ人となった。
担架に乗せられ、物言わぬ姿で町へ帰る彼等。
その中には、彼女達が父と慕った男の姿もあった。
彼の仲間はこう言った。
洞窟を出るまで、かろうじて意識があったのだと。
もう少し、手当てが早ければ助かったのだろうと。
そして、彼はとても勇敢であったと。

「私が、無理にでも行っていれば…いや、私にそれだけの力があったならば…。」

こうして、彼女はこの事件を繰り返さぬ為、自らを鍛える道を選択する。


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